INTERVIEW

龍谷大学宗教部 職員
安食 真城さん
龍谷大学社会学部4年
野村 碧海 さん
松澤 ひかり さん

龍谷大学は、深草(京都市伏見区)・瀬田(滋賀県大津市)・大宮(京都市下京区)の3つのキャンパスに約2万人の学生が学ぶ総合大学。その歴史は1639年に西本願寺に設けられた僧侶養成・教育機関「学寮」に始まり、2039年に創立400周年を迎える。

誰もが自分らしく安心して
過ごせる大学や社会に。
龍谷大学の学生と教職員が
連携した取り組みとは(前編)

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浄土真宗の教えを建学の精神とする、龍谷大学(本部・京都市伏見区)。仏教の思想に根ざした「仏教SDGs」を掲げ、その一環としてジェンダーやセクシュアリティに関する偏見や生きづらさの解消に、学生と教職員が連携して取り組んでいます。インタビュー前編では、これまでの取り組みの内容や、2025年11月開催の映画イベントについて、職員の安食真城(あんじき・しんじょう)さんと学生代表2名に語っていただきました。
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龍谷大学の取り組み

アンケートに寄せられた当事者の声が出発点に

龍谷大学が推進するジェンダーやセクシュアリティに関する取り組みに、皆さんはどのような立場で関わっていますか。自己紹介も兼ねて教えてください。

安食龍谷大学職員の安食です。私が今いる宗教部という部署は、毎朝の勤行や毎月の法要など、仏教様式で行われる学内行事を担う本学の事務組織です。部の業務の一つに人権啓発があり、その一環で、ジェンダーアイデンティティ(性自認)やセクシュアリティ(性的指向)に関する意識の醸成や環境整備の取り組みを行っています。また私は僧侶でもあり、滋賀県のお寺の住職を務めています。

野村社会学部4回生の野村碧海(あみ)です。友達にLGBTQ+の当事者がいたことをきっかけに、このテーマに関心を持ちました。大学の授業でLGBTQ+について学ぶ中で、もしかしたら友達も悩みや生きづらさを感じているのかな、と考えるようになって。昨年、所属ゼミの松浦哲郎先生から宗教部を紹介していただき、安食さんにお話を聞くために訪ねたのが始まりです。

松澤同じく社会学部4回生の松澤ひかりです。高校のとき身近に同性同士のカップルが何組かいて、私を含めた周りもそれを自然に受け止めて、異性間の恋愛と同じように恋バナをし合う環境でした。大学に入って、「人権論」の授業で題材になっていたLGBTQ+に関心を持ち、私もゼミの松浦先生から宗教部を紹介していただきました。野村さんと私、そして大学院生の長尾菜摘さんの3人で「にじLOVE」という学生チームを組んで、LGBTQ+をめぐる課題解決への理解促進を目指した活動を行っています。

龍谷大学として、取り組みに注力するようになった経緯を教えてください。

安食これは私自身が初めて問題意識を持ったタイミングでもあるのですが、2015年に、セクシュアルマイノリティをテーマに扱う教職員向けの小規模な研修会があったんです。今でも覚えていますが、「LGBTという言葉を知っていますか?」という講師の問いかけに、私を含めた何人かが手を挙げました。「では会ったことはありますか?」という問いに、今度は誰も手を挙げなかったんです。すると講師の方が「変ですね。割合でいうと左利きの人と同じくらいいるはずですよ」と。その言葉にハッとさせられました。それまで私は性の多様性について関心を向けたことがなく、知らないことばかりだったんです。驚くと同時に、これは大学として早急な対応が必要だと強く感じました。

取り組みに先立って、学内アンケートも実施されたとか。

安食現状やニーズを把握する目的でオンラインのアンケートを行いました。任意の無記名方式で858人から回答を得て、うち130人がセクシュアルマイノリティの当事者だという回答でした。これがエビデンスとなって、大学をあげて取り組むことへの共感と応援の声が教職員の間に増えていきました。取り組みに着手し始めた当時、私にカミングアウトをしてくれた学生さんがいたんです。それまでも毎日顔を合わせて親しく会話していた学生さんなのですが、何も知らずにいた私は「LGBTQ+の人には会ったことがない」と思い込んでいただけだったんですね。そこから、その学生さんにもいろいろ教えてもらいながら取り組みを進めていきました。

さまざまな施策を推進

性別にかかわらず利用できるトイレを各キャンパスに設置

LGBTQ+当事者への支援や、人々の意識を醸成させるために、これまでどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。

安食2017年に龍谷大学として「性のあり方の多様性に関する基本指針」を策定し、これに基づいて進めてきた施策の一つがトイレの整備です。学内アンケートで、当事者から「大学ではトイレに行かず、コンビニのトイレを利用している」という回答が寄せられるなど、従来の男女別のトイレとは別のオールジェンダーに対応するトイレの整備を求める声が複数ありました。そこで、それまで車いすの人に使用を限定していた多機能トイレを、「だれでもトイレ」という名称に変えて、必要な人は誰でも使えるようにしました。その後、トランスジェンダーの方や車いすユーザーの方、トイレメーカーの方とも意見交換を重ね、当事者のニーズを踏まえた「だれでもトイレ」を新たにキャンパスの各所に設置しています。トイレは誰もが使うものなので、「だれでもトイレ」を目にした人が、なぜこのようなトイレがあって誰が必要としているのかを考えるきっかけにもなるでしょう。その意味でも意義ある取り組みだと思っています。

2025年4月に深草キャンパスに完成した新校舎
「灯炬館(とうこかん)」にある、
オールジェンダー対応の
「だれでもトイレ」。
個室ブースが並び、性別にかかわらず利用できる

もう一つ、本学の特徴的な取り組みに、冊子の刊行があります。これもアンケート結果から見えてきたことですが、学生の当事者の多くが就職活動や卒業後のキャリアについて悩み、それを相談できる相手がいないことへの不安を抱えていたんです。そこで実際に就職活動をした先輩たちに経験談や情報を寄せてもらい、冊子を制作しました。「大学生のためのLGBTQ+ライフブック」シリーズとして、テーマを変えながら現在までに4冊が出ています。

野村私は宗教部を訪ねて安食さんからお話を聞くまで、龍谷大学でこうした取り組みが行われていることを全然知らなかったんです。普段は瀬田キャンパスで過ごしていて、宗教部のある深草キャンパスにあまりなじみがなかったことも理由だと思います。性に関する悩みや困っていることを相談できる窓口が学内にあることも、そのとき初めて知りました。

安食大学が開設している「ジェンダー・セクシュアリティ相談」ですね。最初の受付はメールでも可能で、相談者本人の希望に沿って、3つのキャンパスのいずれでも相談に応じています。男女どちらの相談員がよいかも選んでもらっています。

松澤気軽に相談できる先があるのは心強いですよね。実は私も野村さんと同じで、いろいろな取り組みが行われていることを、それまで知らなくて。安食さんにお話を伺って、思っていた以上にたくさんの活動をされていることに驚きました。10年前から続いてきた取り組みが、今では、私たち「にじLOVE」をはじめとする学生たちの活動へと広がってきています。

仏教の教えとのつながり

「自省利他」の心で、気づいて行動する人を増やしたい

龍谷大学は「仏教SDGs」を掲げていますが、多様性尊重や人権啓発の取り組みと、仏教の思想はどのように関係していますか。

安食仏教の教えを建学の精神に持つ龍谷大学は、行動哲学に「自省利他」を据えています。私たちは、ついつい自己中心的な考えや行動になりがちです。しかし、私という存在は他者との関係性から成り立っています。自分のものさしにとらわれず、さまざまなつながりやご縁によって支えられていることに気づくことが大切です。利他を意識し行動することで、自らも成長します。そして成長することで、他の人のことにもっと気づけるようになる。「自省利他」の姿勢はまさに、多様性を尊重し認め合うことにも通じ、持続可能な社会を目指す上でも大切な指針と言えます。龍谷大学は「自省利他」の心を持って社会に貢献できる人を送り出したいと考えています。

多様な性のあり方を認めあう取り組みは、キャンパスの中だけにとどまらないそうですね。

安食京都、東京、大阪などのプライドイベントに学生と教職員が合同でブース出展をしています。学生中心あるいは教職員中心で出展する大学はいくつかありますが、両者が協力してブース運営を行っているのは龍谷大学だけではないでしょうか。とはいえあくまで主体は学生ですので、私たち職員は運営のサポートや経費面での支援を行っています。「Tokyo Pride」への龍谷大学としての参加は、今年で5回目となりました。二人は初めて参加してどうでした?

松澤ブースでは龍谷大学のこれまでの取り組みを紹介したほか、シール投票企画なども行ったのですが、他大学から参加していた学生の皆さんも投票に協力してくれて。同世代の横のつながりを広げられたのがうれしかったです。イベント後に投票の結果をまとめて、キャンパス内に掲示させてもらい、ほかの学生にも見てもらえるようにしています。

野村6月の「Tokyo Pride」から帰ってきたあと、イベントの参加報告も兼ねて、松澤さんと私で「にじLOVE」の活動についてゼミで発表する機会を持たせてもらったんです。発表した内容に対して、十数人のゼミ生みんなが意見やアイデアを寄せてくれて。「そういう視点もあったんや」といろいろな気づきがありました。

松澤4回生の今、取り組みを後輩にも伝えていきたいという思いが強くなっています。いま計画しているのが、アライを増やすための啓発グッズを「にじLOVE」として作ることです。外部の機関から助成金をいただくことができて、制作に取りかかっている段階です。

野村卒業までに必ず実現したいよね。グッズを介して、私たちがしてきた活動を後輩に引き継いでいけたらと思っています。

※アライ(Ally)・・・LGBTQをはじめとするセクシュアルマイノリティ当事者に連帯し支援する人のこと。

映画上映イベント

出演者との縁もあり、大学として全面応援

2025年11月には龍谷大学で、性の多様性をテーマにしたイベントが開催されます。その概要や、開催の経緯を教えてください。

安食同時期に劇場公開となる『ブルーボーイ事件』という映画の上映イベントを、本学の深草キャンパスで開催します。映画上映のあと、監督・出演者も交えたトークセッションや、参加者の交流イベントも予定されています。本作で主演を務めたモデルの中川未悠さんは、先ほど紹介した龍谷大学刊行の冊子「大学生のためのLGBTQ+ライフブック」に過去に寄稿していただいたつながりがあります。そうしたご縁もあって今回、学内での映画上映イベントの開催に至りました。

このイベントをぜひ実現させたいと考えたもう一つの大きな理由として、10代20代の若い学生の皆さんに、性の多様性への関心を高めてもらいたいという思いがあります。見えないところで苦しんでいる人が、実はごく身近にいるかもしれない。しかも、それが命に関わる重大な事態にもなり得る。そのことにぜひ気づいてほしいと考え、大学として今回のイベントを全面バックアップすることを決めました。私自身、映画を観て初めて知ったことや考えさせられたことがたくさんありました。学生の皆さんにもぜひ観てほしいと思っています。

インタビュー記事の
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EVENT INFORMATION

映画公開直前!「ブルーボーイ事件」特別試写会&スペシャルトーク―男でも女でもなく、私は私です―

QRコードからもお申し込みいただけます。

参加費無料

映画公開直前!
「ブルーボーイ事件」特別試写会&
スペシャルトーク

―男でも女でもなく、私は私です―

日時

11/6(木)15:30~

トークセッション登壇者

監督の飯塚花笑さん、主演の中川未悠さんと、長年トランスジェンダーのコミュニティと関わり、複数の大学でセクシャリティに関する授業を担当する西田彩さん(龍谷大学卒)とのトークセッションを開催します。

共同主催

龍谷大学、株式会社ワールド・コラボ・ジャパン

協力

日活株式会社

問い合わせ先

龍谷大学 エヌスソーシャルビジネス
リサーチセンター
ysbrc@ad.ryukoku.co.jp

クリエイティブコラボは、コラボレーショの力で新しいサービスや価値を創造していきます。
日本文化を次世代に継承するプロジェクトや、メタバース・NFTを活用した地域活性、アートと教育など、さまざまな企画を進行中。
一緒にコラボしたいクリエイター、企業の方、ぜひお気軽にエントリー&お問い合わせください。