INTERVIEW

俳優・ダンサー 森山 未來

兵庫県出身。5歳からさまざまなジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年に文化庁文化交流使としてイスラエルのダンスカンパニーに滞在しヨーロッパ各国で活動。2020東京オリンピック開会式では鎮魂の舞を踊った。カテゴリーに縛られない表現者として活躍している。

俳優でダンサーの森山未來さんが運営にかかわる「アーティスト・イン・レジデンス神戸」が2022年4月、兵庫県神戸市に誕生しました。
国内外のアーティストが長期滞在しながら創作活動ができるこの施設。
仲間とともに立ち上げを進めてきた経緯や、出身地・神戸への思い、自身を動かすものについて、森山さんにお話を聞きました。

アーティストに豊かな時間を
提供すると同時に、
地域の文化の土壌を耕せる
拠点でありたい

俳優でダンサーの森山未來さんが運営にかかわる「アーティスト・イン・レジデンス神戸」が2022年4月、兵庫県神戸市に誕生しました。国内外のアーティストが長期滞在しながら創作活動ができるこの施設。仲間とともに立ち上げを進めてきた経緯や、出身地・神戸への思い、自身を動かすものについて、森山さんにお話を聞きました。

開設の経緯

神戸を訪れた
アーティストたちが
滞在できる宿泊施設を

神戸・北野にこの4月にオープンした「アーティスト・イン・レジデンス神戸」は、僕を含む6人が立ち上げメンバーとなって、今年1月から開設準備を進めてきました。発端となったのは僕自身の個人的な経験です。コロナ禍になる前は、年間の半分以上、ダンスパフォーマンスのツアーなどで海外を旅して回る生活を送っていました。日常と異なる環境に身を置いて作品づくりをする「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)」も各国で経験してきました。というのも海外では、舞台作品やパフォーマンス作品の制作にあたって、1、2年にわたる長い制作期間内にアーティストが2、3週間のAIRを繰り返す手法が多くとられているからです。

立ち上げメンバーは6名。
HAAYMM(ハイム)として、プロジェクトを運営

そうした生活がコロナ禍で一変し、国内での活動が続く中で、新しいパフォーマンス作品をAIRで作りたいという思いが強くなっていきました。候補地を検討している過程で、たまたま昨秋から神戸での仕事が続き、創作活動に取り組む場としての神戸の魅力や可能性を再認識したんです。その後、今年1月に「デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)」の創作プログラムに参加した際に、アーティストが滞在できる宿泊施設が神戸には必要だという考えを周りの人たちに話すうちに、思いを同じくするメンバーとチームを結成することになり、今に至ります。

ちょうど同じタイミングで、神戸市が「芸術文化推進ビジョン」の中で、アーティストやクリエイターのための創造環境の整備を方針の一つに打ち出したことも、取り組みを加速させる材料になりました。人との縁、タイミング、行政の方針などいろいろな要素がうまく重なったと感じています。

アーティスト・イン・レジデンスとは

非日常に
身を置くことで生まれる、
内省的で豊かな時間

作品制作にとりかかるとき、大枠のコンセプトやイメージはあっても、どう骨組みや肉付けを進めていくかは、最初の段階では決まってないことが実は多いんです。作品をより豊かなものへと膨らませていくには、その途中の過程で、新たな出会いや予測不可能な要素がもたらすひらめきを取り込んでいくことが大切で、それを促す場としてAIRはあると言えます。

香港でのレジデンス風景。
きゅうかくうしお『素晴らしい偶然を散らして』(2019)より

アーティストはAIRを通して、見知らぬ環境で内省的な時間を持つことで、自分が何を作りたいのかを深く思索することになります。ほかのアーティストや地域住民との交流から、自身の内にある考えや文化を客観的に見つめ直したり、日常生活では見いだせなかったものを発見したりする機会もあるでしょう。そうしたさまざまな刺激や発見が、創作へのインスピレーションにつながります。同時に、アーティストを受け入れる地域にとっても、異文化が流入することで新たな刺激がもたらされて、普段は見過ごしがちな地元の魅力を再発見する機会にもなります。

各国でAIRを経験してきて思うのは、地域の特性や、その土地に根差す文化によってAIRのあり方も多種多様だということ。のどかな田園地帯なのか、凍てついた雪山なのか、あるいは都市の喧騒の中にあるのかでも、そこでの過ごし方や地域の人々との距離感はおのずと変わり、受けるインスピレーションも当然ながら違ってくる。AIRに決まった型や定義はないからこそ、「アーティスト・イン・レジデンス神戸」がどんな場になるかは未知数で、これから実際に稼働する中で時間をかけて発見していくことになると思っています。

神戸の街との親和性

「風が通り抜ける街」に
国内外のアーティストが
集う面白さ

今回、北野地区にある昭和30年代に建てられた外国人向けマンションの2フロアを改装してレジデンスを開設しました。天井が高く、もとは土足で室内に入る仕様になっていたり、女中部屋があったりと、建物自体が異文化を内包した空間です。そのためリノベーションは最小限にとどめて元の造りをできるだけ活かしています。

南北を海と山に挟まれた神戸の街は、風がよく通り抜けると同時に、東と西とを結んで人や物が絶えず行き来する地理的な特色があります。明治の開港以降、世界につながる窓口となったことで、国内外から多種多様な文化の風が流れ込んできた歴史もある。そうした神戸の街とAIRとは、間違いなく親和性が高いな、と。それに加えて、旅をしながら生きてきた僕自身の気質と、神戸の流動性とが合っていると感じたことも、AIRを神戸に立ち上げた理由です。もちろん出身地としての愛着もありますが、そのこと自体が神戸を選んだ決め手ではないんです。

南北を海と山に挟まれた神戸の街。多様性を育んできた歴史的背景も併せ持つ

そもそも神戸とひと口に言っても、エリアごとに表情は多彩です。海に面していない区もありますし、「港街・神戸」とひとくくりにはできない多様で多面的な魅力があります。アーティスト自らが神戸のあちこちに足を運び、街の流れの中に身を置きながらさまざまなものを感じ取っていく。そのハブとして北野のレジデンスを活用してほしいですね。

暮らしの根幹にあるアート

アートがもたらす
「異なる視点」が
人生を豊かにする

初年度はまず、運営メンバーの旧知のアーティストたちに実験的に滞在してもらい、ゆくゆくは行政や文化庁の助成金制度なども活用して運営体制を整えていく予定です。並行して、神戸市内の文化施設や各国の大使館とも連携して、国内外のアーティストの受け入れも進めていくことになります。僕以外の運営メンバー5人は、それぞれ現代アート、建築、食、映画、デザインなど、異なる側面から神戸の文化と長く関わって来た人たちです。そうしたメンバーが今後、滞在アーティストの選定に関わることで、例えば現代アートが食に影響を与えたり、あるいはパフォーミングアーツが建築にインスピレーションをもたらしたり、といった交流が実現するかもしれない。そこから広がる可能性も面白いですよね。

神戸市・北野エリアの高台に位置する、
アーティスト・イン・レジデンス神戸

絵や立体物にとどまらず、身体表現、さらに近年はコミュニティアートのようなプロジェクト形態のものも含めて、アートの裾野が大きく広がっています。共通して言えるのは、作品をみる人がそこから何か新しい刺激を受けて、日常の風景が少し違って見えたり、人生がより豊かになったりする、そのきっかけになり得るということ。つまり新しい視点や気づきを人々にもたらすのがアーティストなんです。そう考えると、アーティスト自身の時間をより豊かにするAIRは、文化という人間生活の大切な根幹の、そのまた土台を支える役割を担っているとも言えますね。目には見えないけれど実は、神戸という街の文化の土壌を少しずつ少しずつ耕して豊かにしている、そんなモグラみたいな存在のレジデンスでありたいですね。

自身を動かすもの

出会いや状況に反応して
身体が動く、
それが表現になる

これまでアーティストとしてレジデンスに出向く立場だったのが、AIRを設立・運営する側になったことで、「アーティスト支援」「地域貢献」といった側面で捉えられることも多いのですが、僕自身はそこに主眼は置いていないんです。それよりも、この取り組みを通して神戸にどんな新しい風が吹き込んできて、そのフィードバックを受けて自分自身がどんな創作活動をできるのか。何より、神戸という場所でどうやってもっと面白く遊べるか。それを確かめてみたいという思いが強いですね。

僕自身は性格上、同じ場所に長くはいられないし、同じことをずっとは続けられないんですよね。映像、ダンス、演劇、現代アート番組のMCなどいろいろな活動をしていますが、考えて選んでいるというよりも、むしろ何かに動かされているという感覚があります。人って、そのときどきの環境や状況、出会いなどに反応して、体が自然と動くと思うんです。例えば4人で会話をしていて、そこから1人が抜ければコミュニケーションのバランスは変わるし、自分の立ち位置や振る舞いもおのずと変化しますよね。そのときどきのコンポジション(構成)の中で自然に反応しながら、僕は体を動かしたり、言葉を発したり、こうしてレジデンスを運営したりしているのかもしれない。何かに反応して身体が動く、その動きそのものを表現として捉えたいという思いが今はあります。

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)での
アーティストサポートプログラムに参加。
エラ・ホチルド×中野信子×森山未來『FORMULA』(2022)の成果発表の様子

バレエやストリートダンスのように形がはっきりしているダンスや、競技スポーツもそうですが、第一線で活躍する上での肉体的な限界年齢はどうしてもあります。それに対して、コンテンポラリーダンスが追求するのは、今ある身体をどう表現に落とし込んでいくか、ということ。つまりコンテンポラリーダンスはスタイルではなく概念であって、年齢を重ねながら死ぬまで表現を続けられる。だからこそ僕はこの先も、動かされる体で生きていける、生きていきたい、と思っています。

「アーティスト・イン・レジデンス神戸」もこれから、国内外のアーティストが滞在し制作活動に取り組む中で、おのずと転がっていったり色づいたりしていくでしょうし、レジデンスを起点に新たな人の流れや動きも生まれるはず。それらが少しずつじわじわと土壌に滲み出し、地域の人たちが「神戸にはこういう文化があるのか」と気づき始める。そうしたプラスの循環が生まれる場になればと願っています。僕自身も「アーティスト・イン・レジデンス神戸」を定着のための拠点ではなく、今まで以上に自分自身が流動的になるための通過点として、創作を続けていきたいですね。