INTERVIEW

株式会社 Arabirth 代表 松本 悠里

UXデザイナーやスタートアップ企業での自動運転のAIソリューション、空飛ぶクルマの団体活動など、UI/UXにおいて豊富な経験をもつ松本氏。2019年より視覚と聴覚の共感覚をテーマにしたインタラクティブアートを展開中。

アートとテクノロジーの融合。
インタラクティブアートが
生み出す
新しい
コミュニケーションのカタチ

双方向芸術といわれるインタラクティブアート。コンピュータ・テクノロジーを活用し、従来の芸術作品とは違った感情移入のアプローチを行う手法として注目されています。観る人の五感に直接作用する光や音を操り、作品との対話を生み出す松本氏に話を聞きました。

インタラクティブアートとの出会い

人間の認知と行動を考えていくことに関心があった

私は学生の頃から、人間の認知について興味があったんです。人が情報など何かの刺激を受けたときに、どう脳や心で処理していくのか。その動きや想いといったものが、こんなに人間がいる中で千差万別なのがとても面白いと感じていました。

たとえば、私はUXデザイナーの仕事を10年ほどやってきましたが、以前 “方向音痴の人向けの地図”というものを作ったことがありました。ナビゲーションを使うのが苦手な方向音痴の方たちは、何を認知し、どう情報を取得しながら意志決定しているのか。人の感じ方や認知を探ることがUXデザイナーの基本でもあり、そうしたリサーチを通じて、人間の認知と行動を考えていくことに関心があったのです。

インタラクティブアートは、実はこうした認知科学と多くの接点があるものです。人が何を認知してどう感じ、どう動くかが、作品の表現に直接的に関わっていく。つまり、何かに触ったり感じたりしてその人のフィルターを通し、内面を表していくことが可能になります。絵画も同じような側面はあるとは思うのですが、よりダイレクトに、人間の各々の内面に触れられる作品を創れると感じたことが、インタラクティブアートに興味が湧いていった理由でもあると思います。

色覚と聴覚の共感覚がテーマの「演奏の花」

人が何かの刺激を受けたとき、心の変化がカタチになるのが面白い

インタラクティブアートは、つねにその場に「人」がいてこそ、完成するものだと思います。作品と鑑賞する人の接点から何かが生まれ、その人ならではのカタチを創っていくもの。そう考えると、やはり私は人の存在や行動に興味があるということでしょう。
UXデザインは、見る人にこうした行動をとってほしい、という誘導を念頭にデザインを組み立てていくのですが、アートにはそれがありません。だからこそ、観る人が何かの刺激を受けたり接触したときに、心や行動に自由な変化が現れるのはとても面白いんです。

現在、私が創作しているのは、色覚と聴覚による共感覚をテーマにした「演奏の花」というインタラクティブアートです。ピアノの音を鳴らすと、共感覚の色聴をもとにした花の映像がスクリーンに現れ、花畑が生成されます。自由に音を鳴らして感覚の世界を広げていってほしいと、音のデザイナーと一緒にアイデアを膨らませていきました。

ピアノを使ったのは、一般の人が触れやすいものにして接点の間口を広くしたかったから。「花」というインターフェイスを選んだのは、色が多様にあって空間に存在し、人が不快にならず、動きが出せるものだったからです。つまり、接点から表現していくものは何でもいい。人が何かを感じて、それによってどう行動が変わるかは、まさに自由なのですから。

着想は“ビジョン先行型”

「こんなものがあったら
絶対に素敵だ」と
パッと思い浮かぶ

私の着想は、完全にビジョン先行です。頭の中に、「こんなものがあったら絶対に素敵だ」というものが浮かぶことから始まります。自分が表現したいものが初めにあって、そこからどうして花なの? なぜ円にしたいの? という意味づけをしていきながら、それに当てはまるロジックやテクノロジーを加味させていきます。

UXデザインの場合は、リサーチに沿って行動や形態を整えていきます。つまり目的に沿って最終に至る課題解決型であることが多いのです。それが私の場合は困ったことに、初めから創りたいものがある。アートはビジョンを実装するために手段を構築していくものですが、ビジネスとして考えていくには社会との関係性を作っていくことが必要で、起業して以来、その関係性をうまく作ることもテーマのひとつになっていますね。

インタラクティブアートがもたらすコミュニケーション

アートとテクノロジーの
融合が新しい世界を
創っていく

これからの社会では何をするにしても、テクノロジーというものに触れていくことは必須であると思います。それはアートの世界でも同様で、テクノロジーがさまざまな影響を与えることになる。たとえば、腕時計は誕生して200年程度ですが、今は当たり前のものになってどんどん進化しています。そうした“当たり前”を更新していけるのはテクノロジーの素晴らしさです。そして変化を怖がらず、人間の良さを残したままで新しい方向性を示唆できたり、試せるのがアートだと思うし、テクノロジーとアートの融合で新しい世界を創っていけるのがインタラクティブアートの魅力なんです。

そう考えれば、これから未来に向かうなかでは、まったく違った技術や道具、方法が発達し、人がそれを活用していくのはごく自然なこと。それによって、インタラクティブアートが生み出す双方向のコミュニケーションがいっそう促されていくことになると私は思います。「毎日おもしろいことなんてない…」と思っているような人が、「こういうものもあるんだ。もっと知りたいな」と少しでも感じてくれることが、コミュニケーションのきっかけになると思うのです。

だからこそ、アートに触れる人の感性はつねに自由であってほしいと思っていて、作り手が無理やり、「きれいでしょ」「感動するでしょ」と強いるのではなく、観る人に委ねられる状態であるのが好きなんですね。作り手のアプローチ方法や表現の方法、効果として期待するものは一律ではありませんし、ぜひ、みんなに自由に感じてほしい。それが、インタラクティブアートの創り出す新しいコミュニケーションにつながると思って取り組んでいます。

教育、ヘルスケアの領域も視野に

人間の反応の引き出し、
アートの自由さを
社会課題に結び付けたい

昨年の夏に参加した、品川でのインターナショナルスクールでのサマーキャンプで面白いことがありました。幼稚園児を対象にしたテクノロジーやアートの催しで、アーティストやITエンジニアに交じって私も参加させていただき、インタラクティブアートを実際に幼稚園児に体験してもらったのです。

園児たちは実際にピアノを弾いてアートを描くなど、各々で楽しんでくれました。そこで面白いと思ったのは、年齢によって人間の発達段階や行動が違うという面を再認識したこと。3歳くらいから「弾けないと恥ずかしい」という感情が生まれる一方で、1歳や2歳ではそれがないから、ピアノに触りたいだけ触ります。逆に、弾けないことを恥じて、ずっと触れない子もいる。人間の感じ方の発達段階や社会に触れている部分が、年齢によって差があることを実際に見られて興味深く感じました。

こうした教育やヘルスケアの領域においては特に、インタラクティブアートの良さを活かしながら、何かのコラボレーションを考えていけるように感じます。その意味でも今後は、人間の反応の引き出しや、アート特有の自由さが社会と結びつくことで、世の中にさまざまな効果をもたらすプロジェクトを生み出していきたいですね。課題解決のための仕組みだけでなく、余剰の遊びの自由さにこだわっていくこと。そしてアートがもたらすコミュニケーションを追求していきたいと思っています。

<INFORMATION>

作品/常設展示場所
先進映像TECH共創ラボ
~EJEVER(エジェバル)

港区東新橋1-8-2 カレッタ汐留3階