INTERVIEW

フォー・ノーツ株式会社 代表取締役社長 西尾 太

人事制度設計や教育研修企画といった人事の土台づくりから、人事担当を育成する「人事の学校」も主催する西尾氏。最新著書は「超ジョブ型人事革命」(日経BP)。

変化の速い時代でも
活躍の場を広げる
“超ジョブ型”クリエイターに
なるには

コロナ禍で一気に広がったテレワークや、契約形態の多様化など、クリエイターの働き方に今、さまざまな変化が起きています。これからの時代に、クリエイターが活躍の場を広げる上で大切になることとは。人事のプロであるフォー・ノーツ株式会社代表の西尾太氏にお話を聞きました。

人事のこれまでと現在

働き方改革、テレワーク、
ジョブ型…進みつつある
「第4次人事革命」

私はこれまで30年以上、ほぼ一貫して人事の仕事に携わってきました。近年、働き方改革やテレワーク、ジョブ型雇用、副業、AIの活用など、働き方や人事に関するさまざまなキーワードがニュースをにぎわせています。押し寄せるこうした変化の波に対し、企業が対応を迫られている今の状況を、私は「第4次人事革命」と呼んでいます。

振り返ると、戦後の日本企業の人事の方向性には、大きな転換点が3度ありました。最初の第1次人事革命は、高度成長期が終わりを迎えた1970年代半ば。企業はそれまでのように「部長」や「課長」などのポストで人を処遇しきれなくなり、代わりに、人を能力で処遇する「能力主義」へと舵を切りました。次の第2次は、バブル崩壊後の90年代。企業の業績が悪化して、人を能力でも処遇できなくなり、注目されたのが欧米型の「成果主義」でした。年俸制や、職務を明確にして処遇に反映させる、今で言うジョブ型を取り入れる企業も出てきました。

その揺り戻しが来たのが第3次です。成果主義の問題点や弊害が目立つようになり、かといって能力主義に立ち戻ることもできず、その結果、2000年代以降に多くの企業が選んだのが「成果を出すための行動」に焦点を当てる制度作りでした。これは今も、「行動を評価して基本給に反映し、成果を評価して賞与に反映する」という方法で定着しています。現在までの流れを端的に振り返るとこのようになります。

ジョブ型は根付くか

従来の日本型雇用とは
対極のジョブ型。
エッセンスをうまく取り入れることがカギに

こうして見ると、今の状況は、第2次と似ている部分があります。テレワークの浸透で「成果」が重視されるようになった点や、ジョブ型への関心の高まりなどがそうです。90年代当時、成果主義がうまく定着しなかった大きな要因は、成果主義と言いつつ成果に基づく評価がきちんと行われないなど、制度と実態に矛盾が起きていたことでした。今回も、「やり方」だけを安易に導入しても、根本の「考え方」が変わらなければ、同じ失敗を繰り返しかねません。

特に、ジョブ型雇用は、日本に完全な形で定着することはないだろうと私は見ています。ジョブ型雇用とは、仕事内容を「ジョブディスクリプション(職務定義書)」で詳細に決めた上で、人を採用・処遇する仕組みです。つまり「人を見て、仕事内容や処遇を決める」のではなく、「仕事とその報酬を定義してそこに就く人を決める」という考え方です。こうした欧米のジョブ型雇用は、新卒一括採用やジョブローテーションを基本とする従来の日本型雇用とは対極にあり、それが日本での定着は難しいと思う理由です。職務をカッチリと決めると、「これは自分の守備範囲ではないから関係ない」という考え方も出てくるでしょう。そのジョブが会社で不要になった場合にどうするのか、という問題もあります。さまざまな矛盾が考えられるのです。

一方で、ジョブ型の良さを活かす方法はあると思います。特にテレワークでは、仕事の過程が見えにくいため、個々人のミッションと目標をあらかじめ明確にしておくことが、効率化やモチベーションの維持には欠かせません。コロナ禍で働き方が変化している今、ジョブ型のエッセンスを取り入れた、「ジョブ型的」な方法は有効だと考えています。

“超ジョブ型”とは

専門性のブラッシュアップに加えて
クリエイターが身につけたい2つの力

ミッションと目標を明確にする大切さに触れましたが、さらに言うと、これからの時代に求められるのは、ミッションや目標をしっかりと認識した上で自分の職務を自分で定め、自ら成長していける人材です。こうした人材を私は「超ジョブ型プロフェッショナル」と定義しました。ジョブ型を超える、つまり「どこにでも行ける人材」になることを意味します。

では、超ジョブ型を目指すにはどうするか。私の提案は、専門性に加えて幅広い知見も持ち合わせた「T型」の人材になることです。クリエイターのみなさんの多くは、すでに特定の専門性を身につけた「I型」人材に当たるでしょう。そこに横棒を加えるためにおすすめしたいのが、マネジメントスキルを磨くことです。マネジメントスキルは、大別すると「タスクマネジメント」と「ヒューマンマネジメント」の2つのスキルからなります。

タスクマネジメントとは、段取りを組み、計画に沿って実行し、高い品質のものを期限内に仕上げる、といった一連の業務遂行力を指します。一方のヒューマンマネジメントは、そのベースとなるのがコミュニケーション力であり、さらに分けると発信力と受信力になります。クリエイターが仕事をする上では、クライアントのニーズや世の中が求めるものを理解し形にしていく受信力は欠かせませんし、自らの考えや意図を相手に伝える発信力も求められます。こうしたマネジメントのスキルはまぎれもなく「どこでも通用する力」であり、企業勤めやフリーランスなどの立場を問わず、意識的に磨いていけるものです。

クリエイターのみなさんの中には、専門性を究める「I型」で十分だ、と考える人もいるでしょう。それも一つの道ですが、変化が激しいこの時代に、持っている専門性がやがて陳腐化しないとは限りません。また、クリエイティブの分野では往々にして、経験の長さよりも若い感性が求められるのも現実です。専門スキルのブラッシュアップに絶えず努めながら、並行して普遍的なマネジメントのスキルを磨くことで、クリエイターとしてのこの先の選択肢は広がるはずです。

企業に求められること

優秀な人材を引き付ける求心力となるのは
「成長できる仕組み」と「理念の共有」

「超ジョブ型プロフェッショナル」が働きやすい環境を整えるために、企業には何が求められるのでしょうか。私は日頃から、人事の究極の目標とは「どこにでも行ける人がウチにいる状態にする」ことだと唱えています。「ここにいれば世の中に通用する人材になれる」と思える環境なら、人は逆に辞めなくなることを経験上知っているからです。

クリエイティブ分野にあてはめると、部署やプロジェクトの中にクリエイターとして学ぶべき相手がいて盗めるものがある、と思える環境は大事でしょう。マネジメントのスキルを身につけられる仕組みが整っていることも、魅力となり得ます。大切なのは、ステップアップの道筋が示され、なおかつ、フィードバックが適切に行われること。「クリエイターとしての今の立ち位置はどこか」「さらなる成長のためには何が必要か」をきちんと指摘してもらえる仕組みがあってこそ、「ここにいれば成長できる」という手応えにつながります。

また、企業として掲げる理念を、社員はもちろん業務委託契約を結ぶクリエイターとも、きちんと共有することは大切です。会社のベクトルと、クリエイター本人が仕事を通してどんな価値を発揮したいかというベクトルが重なったとき、モチベーションは高まり、さらなる価値の創出に結びつくはずです。繰り返しますが、人事で大切なのは、「やり方」を論じる前にまず、「考え方」をしっかりと持つこと。変化の波が押し寄せる今こそ、本当に腹を据えて、新たな時代の人事の仕組み作りに取り組むことが、企業には求められていると思います。