INTERVIEW

常楽寺 住職/秩父札所連合会 会長 柴原 幸保

埼玉県秩父市の曹洞宗の寺院、慈眼寺(じげんじ)に生まれ、大学卒業後、曹洞宗大本山総持寺で3年間修行。慈眼寺住職を経て、現在は秩父札所11番常楽寺住職。秩父札所連合会の会長として観音巡礼の振興活動に注力するほか、会社経営者、作家、YouTuberなど多彩な顔をもつ。

札所めぐりを通して
地域ともつながる、
持続可能な新しい
巡礼文化を秩父から発信

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埼玉県秩父地域の34寺院からなる「秩父札所」で、ご本尊(秘仏)が特別公開される12年に一度の「午歳総開帳」が2026(令和8)年に行われます。江戸時代から続くこの伝統行事の見どころや、巡礼文化の今とこれからを、秩父札所連合会会長の柴原氏にお聞きしました。地域活性化の取り組みや会社経営など、幅広い活動に尽力する柴原氏の行動力・発想力の源泉にも迫ります。

伝統行事「午歳総開帳」

江戸の人々もこぞって訪れた12年に一度の総開帳

「秩父札所(ふだしょ)」は、埼玉県の秩父地域に点在する34の寺院からなる観音霊場です。私はその一つ、札所11番の常楽寺で住職を務めています。秩父札所の巡礼道ができたのは、鎌倉時代の文暦元年(1234年)のこと。もう800年近い歴史があるんです。江戸時代には、江戸のまちから関所を通らずに訪れることができる信仰の地として、人々の心の支えになりました。秩父札所は、西国三十三所、坂東三十三観音と合わせて、「日本百観音」に数えられています。

この秩父札所で12年に一度、普段は見ることができない各寺院のご本尊が一斉に公開されるのが、「午歳総開帳(うまどしそうかいちょう)」です。江戸時代から続く伝統行事で、次の午年は来年の令和8年。3月18日から11月末まで、約8カ月にわたり総開帳が行われます。この期間だけの特別な御朱印の授与もあり、多くの方が受けに来られます。

総開帳に向けて、秩父札所がある1市3町(秩父市、横瀬町、小鹿野町、皆野町)に、長瀞町も加えた“オール秩父”で盛り上げていこうと、秩父札所誘客促進協議会が一昨年に設立されました。それぞれの市町の役所・役場や観光協会、商工会、さらに鉄道・バス・タクシー会社、旅館の組合などで組織されています。秩父札所連合会の会長である私は、この誘客促進協議会の会長も務めています。

誘客促進に取り組む上で、私が特に大切なテーマだと考えているのが、地域との連携です。お参りに来られる方々が、札所めぐりを通して地域とつながることができる、そんな仕組みを作りたいと思っています。例えば、札所の周辺にある飲食店や土産物店にも足を延ばしやすいマップアプリの提供や、デジタルスタンプラリーの開催など、皆で知恵を出し合いプランを練っているところです。

地域とのタッグ

秩父地域が一体となって、訪れる方々をお迎えしたい

地域一体で巡礼者を迎えるというのは、実は、秩父札所めぐりの原点に立ち返ることでもあるんです。江戸時代、多くの人が江戸から川越街道を歩いて秩父まで来ました。最も江戸寄りに位置する札所1番の四萬部寺(しまぶじ)は秩父市栃谷(とちや)という地域にありますが、この栃谷には、江戸からはるばる歩いてきた人々が休める宿がなかったんですね。それで農家の人たちが、今でいう民泊を始めたんです。当時の史料によると総開帳の年には4万人もの参詣者があったそうで、宿泊や食事の提供を通して地域も潤ったことでしょう。観音巡礼は、信仰に加えて観光の要素も大きく、その経済効果が地域に還元されてきたことで、総開帳が途切れずに受け継がれてきたと言えます。

時代は移り、交通も発達して、総開帳はいつしか寺院のみが関わる行事となりました。地元にお住まいでも「総開帳は知っているけど行ったことはない」という人が多い状況だったんです。これでは地域に根差した文化とはいえず、後世に伝わらなくなってしまう。そんな危機感を持っていた15年ほど前、京都で印象的な光景に出会いました。当時、西国三十三所のご本尊が順に御開帳される機会があり、私もいくつかお参りさせていただいたのですが、清水寺へと続く参道の坂で、御開帳を知らせるフラッグが各店の軒先にずらりと掲げてあり、それは壮観でしたね。地域を巻き込む大切さをその時に実感したんです。あの光景を秩父でも実現したいと考えて、中心街の商店連盟連合会と連携してフラッグの準備を進めています。

持続可能な形で巡礼文化や総開帳を未来につなげていくには、寺院だけの行事にとどめるのではなく、地域の事業者と共栄できるものであることが何より大事だと思っています。そのためにも、札所めぐりの方々が地域とつながるような仕組みを今回の総開帳で作り上げて、総開帳の期間以外にもフルに活用していきたいですね。総開帳への誘客はゴールではなく、その先こそが肝心だと捉えています。

日本百観音のつながり

地域や国を越えて、観音様を中心にした霊場のネットワークを

日本各地には秩父と同じような小規模の観音霊場が600ほどもあります。しかし、お寺を守る人がいなくて御朱印の授与ができないなど、札所がそろわないところも多く、実際に巡礼路として運営されている霊場は限られます。そうした状況の中で、なぜ秩父札所は生き残ってこられたのか。それは、34のお寺が連なり秩父札所が成り立っていて、さらには「日本百観音」だからなんです。どこか一つでも欠けると百観音ではなくなってしまう。それは西国さんも坂東さんも同じです。

日本百観音として、各札所の関係者が集まる総会が毎年あり、情報のやりとりも普段から頻繁に行っています。ですが振り返ると、かつて秩父札所は、西国さんや坂東さんとは同じ土俵に上がりにくい感じがあり、私自身、集まりの場ではいつも恐縮していましたね。霊場としての知名度や規模に大きな差があるからです。その気持ちが変わったのは、平成30年(2018年)の西国三十三所1300年記念のときに、奈良の長谷寺で行われた集まりでした。私も秩父の代表として伺ったのですが、清水寺や石山寺などそうそうたるお寺の住職や貫主が並ぶなかで、どなたかが「観音様の前ではみんな同列です」とおっしゃったんです。お寺の格式や歴史がどうこうではなく、日本百観音というのは観音様を中心にした霊場のネットワークなんですね。秩父札所もその大事な一端を担っているのだと改めて気づいたのです。

日本百観音での連携を今後もさらに強めていきたいですし、台湾三十三観音をはじめ、海外の巡礼路とのつながりも大切にしたいですね。地域や国を越えて、巡礼の魅力を多くの人に伝えられるような取り組みを広げていければと考えています。

活動の根幹にあるもの

仏教の教えを生活に活かし、毎日をハッピーに

住職である私は株式会社も経営し、ほかにも書籍を出したりYouTubeで発信したりといろいろな活動をしています。根幹にあるのは、仏教の教えを通して人生をハッピーにするための方法を広めたい、という思いなんです。新しいところでは、ChatGPTを使ったAIチャットボット「おしゃか様は言いました」を開発し、一般公開しました。悩みを入力するとAIがお釈迦様の言葉を引用してアドバイスを返してくれます。開発を思い立ったのは、私自身が本を書いたときの経験からです。身近な疑問や質問にお釈迦様の言葉を使って答えていく内容だったのですが、膨大な経典にあたって適切な言葉を探し出す作業がとにかく大変で。もっと手軽に検索できる仕組みがあれば…と思ったことが開発につながりました。

このAIチャットボットは、専門用語を使わないやさしい言葉で、なおかつ日常生活に役立つ具体的な実践方法も交えて回答するように作ってあります。この二つは私が普段、お釈迦様の教えを皆さんにお伝えする上で心がけていることでもあります。難しいことを難しいまま伝えるのなら、何も工夫はいりませんよね。そうではなく、難しいことをやさしく伝えるのが、実は一番頭を使います。とりわけ仏教は難しさの最たるもので、もう難しくってしょうがないわけです。それに、仏教の教えというのは単に「知識」として持つものでなく、毎日の生活の中で「知恵」として活かしてこそ、生きる力につながります。いかに分かりやすい言葉で、日常的に実践できることに落とし込んで伝えられるか、常に考え続けています。

難しい座禅でなくても、朝のわずか5分の椅子座禅でいいんですよ、と伝えているのもその理由からです。毎日繰り返すことで習慣になり、人生は変わっていきます。仏教の教えを日々の生活の中で心がけることで、その人の人生が少しでも豊かになったり、楽になったり、あるいはイライラや迷いが晴れたりすることを願いながら、お寺と人をつなぐ活動を続けています。

巡礼文化のこれから

小回りの利く秩父だからできる新たな試みを

約800年もの長い歴史を持つ秩父札所ですが、何もせずともこの先も続いていくとは思っていません。巡礼に訪れる人の数は年を追うごとに減っているのが現状です。かつては巡礼目的の団体バスが1日に何台も回っていたものですが、そうした巡礼を目的とした集まりである講(こう)や、それを呼びかけてくれる講元(こうもと)と呼ばれる人がいなくなり、状況は大きく変化しました。もっと多くの方に訪れていただくためにも、お寺側の工夫や情報発信が欠かせない時代だと考えています。

秩父札所は個々のお寺の規模が小さいので、知恵や力を寄せ集めないと何もできません。それがかえって良かったのだと今は思います。同じ秩父エリアに集まっているので小回りが利き、一緒になって新しいことを始めやすい。今度の総開帳に向けての、地域を巻き込む試みもまさにそうです。秩父の取り組みは、同じように集客の課題を抱えるほかの観音霊場にとっても良いモデルになれると感じています。

秩父の札所はどれも大きなお寺ではありませんが、地域で守られてきたことが特色と言えます。地域の方々が維持管理してくださっている住職不在のお寺も複数あります。小さなお寺だから伝わる地域の人とのつながりがあり、そうしたふれあいこそが総開帳の価値だと私は思っています。秩父札所の約100kmにおよぶ巡礼路は自然が豊かで、札所周辺のお店や途中の道のりも含めて、さまざまな出会いがあるはずです。ぜひ足を運んでいただいて、四季折々の秩父の自然を感じながら祈りのひとときを過ごしてください。

クリエイティブコラボは、コラボレーショの力で新しいサービスや価値を創造していきます。
日本文化を次世代に継承するプロジェクトや、メタバース・NFTを活用した地域活性、アートと教育など、さまざまな企画を進行中。
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