INTERVIEW

お笑い芸人/お寺・仏像研究家 みほとけ

神奈川県鎌倉市生まれ。慶應義塾大学在学中にアイドルデビューし、2016 年には「ミス鎌倉」をつとめる。アイドル卒業後の2018年にピン芸人として再デビュー。お笑いライブや各種メディアに出演する傍ら、「お寺・仏像研究家」としても活動。仏像やお寺の魅力を幅広い世代に向けて伝えている。

愛してやまない仏像やお寺の
見どころを発信。
外からの目線で魅力を伝え、
ご縁をつなぐ伴走者に

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仏像大好き芸人として活動の幅を広げる、みほとけさん。年間100以上のお寺を訪れ、拝観した仏像はこれまでに1万体を超えるといいます。SNSやYouTube動画など多様なコンテンツを通して、仏像やお寺の魅力を発信中。2024年からは西国三十三所のPR大使として広報活動を担っています。西国巡礼の魅力や楽しみ方、仏像を好きになったきっかけ、これから挑戦したいことなど、お話をお聞きしました。

西国三十三所とは

日本最古の巡礼の道は、
来歴にも不思議が満載

仏像やお寺が大好きで、私の本名の「みほ」に、「ほとけ」を合わせた「みほとけ」という名前で、芸人として活動しています。仏像やお寺の魅力をSNSなどで発信するほかにも、お寺でのイベントに呼んでいただいたり、美術館や博物館とコラボをしたり。仏像やお寺関連のお仕事の機会がありがたいことに増えています。

2024年から「西国三十三所」のPR大使をつとめています。⻄国三⼗三所とは、近畿2府4県と岐⾩県にある33か所の観音菩薩をまつる寺院のこと。これらの観音霊場(札所)を巡るルートは、1300年以上の歴史がある日本最古の巡礼の道で、日本遺産にも登録されています。

この長い歴史の中にも、摩訶不思議なお話がいろいろあって面白いんですよ。起源は奈良時代。奈良の長谷寺を開いた徳道上人(とくどうしょうにん)という僧侶が、閻魔大王から33の宝印を預かったことが始まりと伝えられています。徳道上人は霊場を定めて観音信仰を広めようとしたのですが、残念ながら当時の人々にはなかなか浸透せず、宝印はそのまま中山寺の石櫃に納められることに。それから約270年後の平安時代中期に、花山法皇が宝印を探し出して観音巡礼を再興。現在まで受け継がれる巡礼の道となりました。長らく途絶えていた間、徳道上人は冥界でどんな気持ちだったんでしょうね。再興されたときは、「もう、待ってたよ!」なんて思わず声を上げられたかもしれませんね。

西国三十三所は御朱印の発祥でもあるんです。すべてのお寺で祈りを捧げて御朱印をいただくことで「満願」となり、極楽往⽣できると古くから信仰されています。私も巡礼の際には納経書を持参し、そこに御朱印をいただくのですが、行き帰りの電車の中でぱらぱらと見返すのが好きなんです。「このお寺は小雨の山道を登ってお参りしたな」「このときは帰りのバスがなくて困ったな」などなど、御朱印を眺めていると思い出がよみがえってきて。御朱印が一つまた一つと増えていく喜びはひとしおですね。

巡礼の楽しみ方、場所の魅力

人々の想いが深くしみ込んだ清涼な空気を深呼吸

西国三十三所は、札所第一番から札所第三十三番まで番号があるのですが、順路に決まりはなく、好きな順番で巡っていいんです。白装束を必ず着るなどの決まりもありません。私はお寺に到着すると、本堂でろうそくとお線香、お賽銭、納め札をお供えして、手を合わせて「南無観世音菩薩」と3遍唱えるようにしています。この手順を踏むことで「拝んでいる」というマインドセットができて、より心を込めて参拝できるように感じるんです。本来なら、観音経をすべて唱えるのが理想なのですが、私にはまだまだ難しくて。以前、お寺のかたから「時間は短くてもきちんと観音様のことを唱える、それができていれば大丈夫ですよ」とお話しいただいて、気持ちが軽くなりました。

観音霊場には、水に関わる伝説や歴史が多くあります。滝だったり、井戸だったりとさまざまで、例えば滋賀の観音正寺には琵琶湖の人魚にまつわる伝説が残っています。それもあって私は西国巡礼というと、清らかな水が流れる、清涼ですがすがしいイメージを連想するんです。新緑や梅雨のころの潤いに満ちた空気感が、私の観音様へのイメージですね。

PR大使の活動では、お寺の歴史や伝説について、ご住職から直接お話を聞く機会もあります。事前に予習をしてから伺うのですが、資料に書いてある説明と、実際にそこで生活して毎日拝んでいらっしゃるご住職が語られる言葉というのは、やっぱり重みも奥行きも違います。伝説めいたお寺の起源も、ご住職がお話しされると、その背景にも想像が膨らむような臨場感があって、心にすっと入ってくるんです。「そんな不思議なこともあるんだなぁ…」って。たとえ私がお話を覚えて同じように喋っても、この説得力は生まれません。

観音霊場をお参りすると、長い歴史の中で積み重なった人々の信仰心や想いが、辺り一面に深く染みこんでいるのを感じます。自然豊かな環境の中で、人の手が適度に入ることで清涼な空気が保たれ続けていて。そこに身を置いて呼吸するだけでリフレッシュできて、気持ちも前向きになります。この独特の空気感と気持ちのよさは、言葉や写真では伝えきれません。ぜひ実際に足を運んでいただきたい!と私が切に願う理由です。

仏像大好き芸人として

仏像になりきって実感する、造形美や眼差しの深さ

鎌倉で育った私は、家族の影響で子どものころからお寺や仏像を見に行く機会が多く、もともと馴染みがありました。本格的に興味を持ったのは、高校の修学旅行で京都の六波羅蜜寺を訪れたとき。そこで目にした空也上人像のかっこよさに心を射抜かれたんです。その後、大学時代に「ミス鎌倉」として活動していた際に、建長寺の節分会で「大般若経転読」を間近で見た経験も忘れられません。十数名の僧侶が全600巻ある蛇腹折りの経本を宙に舞わせながらお経を唱える儀式で、それまで私が法要に対して持っていたイメージを覆す迫力と躍動感に圧倒されて。「お寺ってすごい!」とさらに興味を持って、各地のお寺の拝観に通うようになりました。

指には心を射抜かれた「空也上人」の立像を
モチーフにしたリングが

仏像好きが高じて、愛する仏像に私自身が扮する「仏像なりきり」もSNSで公開しています。身の回りにある布や小道具を使うのですが、なりきってみて分かることも多いですね。例えば奈良・興福寺の有名な阿修羅像。6本ある腕の角度や太さが少しでも違うと、印象がまったく変わってしまうんです。いかに絶妙なバランスでなりたっているのかを実感しました。もう一つ、仏像なりきりで難しいのは、眼差しを再現すること。観音像や如来像のスッと切れ長の目は独特ですし、強さや深さを感じる目線も真似るのは本当に難しい。メイクで寄せるにも限界があるので、「私は今あのお寺の須弥壇の上にいるんだ!」と想像して、心からなりきります。

2024年に「みほとけの推しほとけ」(笠間書院)という本を出しました。私の「推し」である48の仏像を紹介しています。本文に収まりきらないほど伝えたいことがたくさんあって、ページの欄外にも「おまけメモ」が満載に。48の仏像のイラストも私が描きました。資料の写真をじっくりと見ながら描いてみると、自分の思い込みと実際の形が結構違っていたりして、細部まで知る良い機会になりました。この本や仏像なりきりを見た人に、「本物を見にお寺に行ってみようかな」と思ってもらえたらうれしいですね。

お寺や仏像とのご縁をつなぐ

仏様は誰にも等しく第三者。だから心を委ねられる

「仏様というのは絶対的な第三者なんです」と、あるお寺のお坊さんがお話してくださったことがあります。例えば私が「親とうまくいかない」という悩みを抱えていたとして、仏様は親寄りの立場でもなければ、私寄りでもない。誰にとっても等しく第三者であって、その関係は揺るがないんですね。それでいて自分だけの存在でもあると感じられて。だから自分の心の内をさらけ出しても必ず受け止めてくださる、と思えるんです。そんなふうに心を委ねられる存在があることは人生の役に立ちますよ、とそのお坊さんはおっしゃっていて、心に残っています。

お寺や仏像の魅力を、若い世代にもっと知ってもらいたいですね。私自身も30歳になって、周りが厄除けを気にし始めるなど変化を感じますし、十数年後には親の介護や健康の悩みも出てくるかもしれません。誰しもライフステージが変わるなかで、今まではそうでなくても、心のよりどころを求める場面があると思うんです。そんなときに「このお寺にはこういう仏像がいらっしゃるよ」「その心配事はこういうところで相談してみるといいかも」とガイドする、伴走者のような存在でありたいですね。その人の気持ちが少しでも和らぐように、お寺や仏像とのご縁をつなぐお手伝いができればと思います。

私は仏門に入った立場ではなくて、お寺や仏像のいちファンというスタンス。だからこそ、外からの目線で語ることで、お寺の方々にとっては当たり前でも実は一般の人にはすごく新鮮で魅力的!というものを見つけられるように思うんです。「自分の好きなものをみんなに知ってほしい!」という思いは当初からずっと変わらず同じですね。それに加えて今は、仏像をとりまく方々が聞かせてくださる貴重で面白いお話を、一人でも多くの人に伝えて分かち合わなければ!という使命感のような気持ちもあります。芸人として自分を磨きながら、大好きな仏像やお寺の魅力を面白く分かりやすく、皆さんに届けていきたいと思っています。

クリエイティブコラボは、コラボレーショの力で新しいサービスや価値を創造していきます。
日本文化を次世代に継承するプロジェクトや、メタバース・NFTを活用した地域活性、アートと教育など、さまざまな企画を進行中。
一緒にコラボしたいクリエイター、企業の方、ぜひお気軽にエントリー&お問い合わせください。