INTERVIEW

mizuiro株式会社 代表取締役 木村 尚子

青森県出身。専門学校でデザインを学び、県内の情報誌制作会社などを経て、デザイナーとして独立。2013年より野菜を使ったクレヨンの開発に取り組み、2014年「おやさいクレヨン」を発売。同年mizuiro株式会社を設立。

野菜の自然な色合いを
活かしたクレヨンで、
人の数だけ多様な
「親子の時間」を彩る

2014年の発売以来、子ども向け文具では異例のヒット商品となっている「おやさいクレヨン」。最近では大手企業とのコラボレーションや海外での販路も広がっています。生みの親であるmizuiro株式会社の代表・木村尚子氏に、「おやさいクレヨン」開発の経緯や、商品に込めた思いを聞きました。

素材の野菜がそのまま色名に

子どもたちの
豊かな感性と響きあう
「おやさいクレヨン」

私たちmizuiroが企画・製造する「おやさいクレヨン」は、お米と野菜からできたクレヨンです。米油とライスワックスをベースに、色付けに使っているのは、規格外などの理由で廃棄される野菜や果物。基本の10色セットは「りんご」「カシス」「きゃべつ」「とうもろこし」など、どれも素材となった野菜や果物の名前がそのまま色名になっています。発色を補うために最小限だけ加えている顔料も、食品用途と同成分のもの。小さなお子さんが手にするクレヨンだからこそ、万が一、口に入れても安全な素材だけで作っています。

「おやさいクレヨン」の商品撮影を畑の中でしていた際に、ふと見ると「きゃべつ」色のクレヨンに芋虫がくっついて、もぐもぐ口を動かしていたことがありました。アリが「とうもろこし」色のクレヨンを好んで寄ってきた、という話も聞きます。通常なら眉をひそめる事態かもしれませんが、「おやさいクレヨン」の場合は、本物の野菜でできたクレヨンだと虫たちからお墨付きをもらったと言えますね。「食べ物由来の安全なクレヨン」という特長や、天然のやさしい色合いを評価いただき、おかげさまで累計出荷数は約16万セットに上ります。アジアを中心に海外にも販路を広げ、2022年夏からはアメリカでも販売開始予定です。

「おやさいクレヨン」で絵を描く子どもたちを見ていると、新しい色を手に取るたびに、まず匂いをかぐんですね。実際には「ねぎ」など特徴的なものを除いて匂いはほとんどしないのですが、絵を描きながら子どもたちは「りんごの匂いがする」と目を輝かせたり、好きな野菜、苦手な野菜について会話が広がったり。持ち前の豊かな想像力を発揮して「おやさいクレヨン」でお絵描きを楽しんでくれている姿にうれしくなります。

「おやさいクレヨン」開発の道のり

素人だからこそ実現できた
9カ月での商品化

2013年に「おやさいクレヨン」の開発を始めたとき、実はものづくりの知識も経験も一切ない素人だったんです。その前年に会社勤めを辞めてデザイナーとして独立したのですが、当時は起業するという意識はなくて、子育てと両立しながら自宅で仕事ができるようにと選んだ道でした。そのころ、訪れた藍染の展示会で天然由来の色の美しさに心を奪われ、そこから「野菜の色を活かした文房具が作れないだろうか」とアイデアが膨らんでいきました。

行政の起業支援担当者などたくさんの人にアドバイスをもらいながら事業計画を練り、県の助成金を受けてスタッフも雇用し、3人体制で開発をスタートしました。インターネットで調べたクレヨンの作り方を参考に、野菜をすりつぶしたり刻んだりと試行錯誤した結果、粉末状にして混ぜ込むことに。製造に協力してもらえる工場を全国から探し、現在もタッグを組む名古屋の老舗クレヨン工房と出会うことができました。助成金の使用期限だった9カ月の内になんとか完成までこぎつけられたのは、今思えば、まったくの素人だったからこそ。経験者であれば、そんな短期間で一から新商品を開発するなんてとても無理だと、はなから諦めていたかもしれません。

廃棄される野菜を活用する案は、開発を進める中で生まれました。もともと野菜を使った安全なクレヨンをコンセプトに据えていましたが、一方で、食べられるものをわざわざ文房具にすることに引っ掛かりも感じていたんです。廃棄野菜を使えばその問題はクリアできますし、原価も下げられる。何より「もったいないものを使い切りたい」という生活者の発想ですね。使用する野菜の約8割を地元の青森県産にすることで、地域資源の有効利用と循環も図っています。

野菜の自然な色を活かすということは、逆に言えば、野菜にない色のクレヨンは作れないということで、実際に「おやさいクレヨン」に青系は含まれていません。でもそれこそが、野菜の色の世界を写しとった「おやさいクレヨン」の個性であり、他社製品と同じ色をそろえようという考え方はしていません。会社名のmizuiroには、クレヨンにない青色を補完する意味とともに、自分たちのカラーや個性を大切にしていこうという思いを込めています。

オリジナル色を共同開発

廃棄素材の
新たな活用方法を
見つける入口に

SDGsへの社会的関心の高まりもあって、ここ数年は企業・団体様からのお問い合わせも増えています。各社の製造ラインで生じる廃棄素材などをリユースする方法として、「おやさいクレヨン」に関心を寄せていただくケースが多いですね。一例としてハウス食品グループ本社様と共同で、スパイスの原料を有効活用したオリジナルカラーのクレヨンを開発。滋賀県甲賀市の丸安茶業様とは、捨てられる茶葉を利用したお茶クレヨンを作りました。

企業規模が大きいほど、製造工程で生じる廃棄物の量も膨大になるため、クレヨンの原料に再利用できるのはそのごく一部にとどまります。それでも、「おやさいクレヨン」がきっかけとなって、これまで捨てられてきたものに新たな命を吹き込むアイデアが各企業様で次々と生まれてくるかもしれません。共同開発がその入口になればと願っています。

廃棄茶葉を利用した「お茶クレヨン」は、
創業150年の老舗茶屋とのコラボレーションで誕生

以前「おやさいクレヨン」をドイツの国際見本市に出品した際、現地の方々に「規格外の野菜」を説明するのに一苦労しました。というのも、ヨーロッパの市場では形もサイズもまちまちな野菜が当たり前に並んでいるんですね。対照的に日本のスーパーで売られる野菜は形もサイズもきれいにそろって、それ以外は流通前に廃棄されてしまう。農作物を「規格」に当てはめることが果たして本当に必要なのか、生産者、販売者、そして消費者も問い直すときに来ているのではないかと気づかされました。

現在、特定の地域の廃棄野菜を使った「ご当地版おやさいクレヨン」の展開も進めています。このシリーズを通して、各地に眠る未利用資源に光を当てると同時に、地方活性化や障がい者就労支援といった側面からも、地域の課題解決に少しでも貢献できればと考えています。

“デザインの会社”として

世代を超えて暮らしを彩る
プロダクトを届けたい

10年前、青森の自宅アパートでデザイナーとして活動を始めたときは、まさか自分が東京の大きな企業さんと一緒に仕事をすることになるとは夢にも思いませんでした。今も小さなベンチャーであることに変わりはなく、言ってみれば、見上げるほどの巨大客船を前にした手漕ぎボートのようなもの。それくらい規模も分野も違う両者が、課題や目的を共有して、アイデアを出しあいコラボレーションできることはとても面白いですし、わくわくします。背伸びせず自分のペースでコツコツと歩みながら、次の10年でmizuiroや私自身がさらにどう進化していけるかが楽しみです。

藍や野菜の飾らないありのままの色に心ひかれたのも、器用には生きられない自分をそこに重ねたからかもしれません。誇れる学歴も経歴もなく、経済的に苦労しながらシングルマザーとして娘を育ててきた私自身を「そんな自分でもいいんだ」「皆が歩く人生だけが正しいわけじゃない」と自己肯定したい気持ちがあって、それが野菜の自然な色に目をとめるきっかけになったのかもしれないですね。グラフィックデザイナーとして画面上で向き合ってきた色とは違って、自然界の色は数値に落とし込めないからこそ、無限の可能性と魅力を感じます。「自然にはかなわない」という謙虚な思いは、常に自分の原点にあります。

自然の色に二つとして同じものはないように、人の生き方も親子のあり方も、みな違っていいと思うんです。一緒に時間を過ごすなかでそれぞれの「親子の記憶」は形づくられていくはず。「おやさいクレヨン」は、そんなさまざまな親子の時間のかたわらにあって、お絵描きを楽しむ温かなひとときの記憶を、世代を超えてつないでいけるような商品でありたいですね。私たちmizuiroはこれからも「デザインの会社」として、「おやさいクレヨン」をはじめとするプロダクトを通じて、親子の時間をより豊かに彩るライフスタイルのデザインを提案していきたいと思います。