INTERVIEW

株式会社ピーステックラボ 代表取締役社長 村本 理恵子

東京大学卒業後、時事通信社で世論調査や市場調査分析に従事。大学教授、ネットベンチャー会長などを経て、エイベックスでモバイル動画配信事業「BeeTV(現dTV)」の立ち上げに参画する。2016年ピーステックラボを設立。

モノの貸し借りを通じて
「体験」を平等に。
格差を超えて誰もが可能性を広げられる社会へ

誰でも気軽にモノの貸し借りができるサービス「アリススタイル」。運営するピーステックラボの代表・村本理恵子氏は、貸し借りを通して「体験」が平等に提供される社会を目指し、他企業とのコラボレーションにも注力しています。「体験」の先に広がる可能性とは? 村本氏にお話を聞きました。

シェアリングのプラットフォーム

「ちょっと使ってみたい」を
かなえるサービス
より手軽に利用できる
定額プランも開始

ネットや雑誌で見かけた話題の美容機器や最新の生活家電。すごく心ひかれるけれど、簡単には手を出せない金額を見て、欲しい気持ちにふたをする…。そんな経験はないですか。私たちピーステックラボが運営する「アリススタイル」は、そうした「ちょっと使ってみたい」をかなえる、モノの貸し借りのプラットフォームです。2018年にサービスをスタートし、現在、登録ユーザー数は50万人を超えました。

取り扱うアイテムは、美容機器や生活家電を中心に、旅行用品、AV・IT機器、ベビー用品など多種多様。個人の方が、買ったけれど使わないままになっているモノを貸し出すほかに、自社商品をより多くの消費者に知ってほしいと考える企業さまからの出品も多数あります。商品ごとに期間に応じたレンタル料金をユーザーが支払うベーシックプランに加えて、2022年3月からは、月額2,980円で商品が自由に交換し放題の定額プラン「アリスプライム」の提供をスタートしました。

「アリススタイル」の最大の魅力は、冒頭の例のように、「使ってみたいけれど購入するにはハードルが高いアイテム」を、気軽に借りて試せるという点です。借りて気に入ればそのまま買い取ることもできるため、商品の作り手であるメーカーにとっても、より幅広い潜在顧客層と接点を持つことにつながります。

さらに、使ってみたかった商品だけでなく、知らなかった商品と出会えることもポイントです。この利点を、サービスのヘビーユーザーである私自身も先日体感しました。レンタル商品の中でふと興味をひかれたスマート睡眠マットを借りて使ってみたところ、翌朝ちゃんと睡眠サイクルがスマホに記録され、睡眠の質もスコア化されて感激しました。ひょっとすると一生知らないままだったかもしれない商品に出会えたわけです。こうしたユニークで素晴らしい商品を手がける作り手の思いにも触れることができ、「アリススタイル」が果たせる役割の大きさを改めて実感しました。

起業のきっかけ

目指す未来を
実現していくために
方法として行きついたのが
シェアリングだった

実は最初からシェアリング市場で何か新しいビジネスをしようと考えて起業したわけではありません。事業を通してこの先にどんな未来を目指したいのか、そこに至るにはどのような道筋があるのかを考え抜いた末に、方法として行きついたのがシェアリングだったのです。

2016年にピーステックラボを立ち上げた当時、私の中で大きな課題意識としてあったのは、日本の社会全体が未来への明るい希望を持てなくなっていることでした。可処分所得が下がり続け、格差も広がるなかで、自身の収入が来年上がる保証はなく、それどころか、勤務先が来年存続しているかも分からない時代です。経済的な事情で欲しいモノをあきらめ、我慢する暮らしを続けることは、それだけ「体験」も失われることを意味します。人にとって「体験」は、自らの思考や視野を広げ、心を豊かにする糧であり、それが失われるということは、実は非常に深刻な問題をはらんでいます。一方で、消費者との出会いが減ってしまうモノの側、つまり、ものづくりの現場にもマイナスの影響は大きいでしょう。

経済事情に左右されることなく、誰もが平等にさまざまな「体験」をできる世の中にしたい。そのための方法として行きついたのが、「モノを買わずに貸し借りする」ことを可能にするサービスです。気軽にモノを貸し借りできれば、この先、収入が増え続けなくても、もっと住みやすく、暮らしやすい社会をつくることはできるはず。その発想を起点に「アリススタイル」は生まれました。

事業着想力

SDGsを背景に高まる
「シェア」への関心
多様な業界と
コラボレーションを展開

SDGsやシェアリングエコノミーへの社会的な関心の高まりを受けて、最近はさまざまな分野の企業さまからのお問い合わせも増えています。すでにこれまで、不動産、銀行、電力、旅行業界などのパートナー企業さまとタッグを組んで共同事業を展開中です。2022年3月からは、沖縄のホテルと連携し、ホテル滞在中に最新家電のお試しができるプランの提供も開始しました。日常を離れた旅先でこそ、豊かな体験をしたいと考える旅行者のニーズに寄り添うサービスです。同時に、ホテルにとっても競合他社との差別化につながり、備品の調達や更新の手間を省けるメリットもあります。今後は沖縄以外にも提携先を広げていく予定です。

さまざまな企業さまと事業を進めていく上で私が意識しているのは、互いの強みや自社にないものを持ち寄って、1社では実現が難しいことも実現していけるwin-winの関係をつくり上げること。そのためにも、相手企業さまのビジョンや課題をしっかりと理解し、私たちと組むことでどのような新しい価値を生み出し得るのか、という観点から提案を行うことを心がけています。

普段から絶えず情報を収集することも長年の習慣ですね。世の中でどんなことが起きていて、いま何が流行っているのか。そうした情報を選り好みせず片っ端からインプットしておくことで、意外なところでつながったり、ヒントになったりするもの。ピーステックラボの強みの一つである「事業着想力」の土台にもなっています。ビジネスを取り巻く環境変化のスピードはきわめて早く、半年スパンで潮流は大きく変わるほど。瞬間的に吹く風をつかめるかどうかは私たちのようなベンチャーにとって特に重要で、日頃からアンテナを張り巡らせることが欠かせません。

コラボレーションがもたらすもの

「本質」を踏まえて
提案を行うことで
1+1=2を超える
コラボが実現する

コラボレーションとは、別の価値観や視点を持つ相手と一緒に何かを生み出すことであり、そこで得られる刺激や発見は、1+1=2を超えた大きな広がりをもたらします。そう考えると、一見、自分たちとはまったく異なる、どこにも接点がないように思える方々ともコラボレーションの可能性は大いにあるということ。実際に、領域のかけ離れた企業さまとも、具体的にお話をしてみると協業ポイントが次々に見えてきたりします。大切なのは、自社の事業やサービスの「本質」がどこにあるのかを突き詰めて考えること。その本質を、異なるジャンルにおいてどう活かせそうか知恵を絞ることで、コラボレーションの可能性はいっそう広がると感じています。

モノの貸し借りによる体験の平等化を目指して、今後も「アリススタイル」の商品ラインナップを拡充し、「体験」をもっと充実させるための仕掛けも考えていきたいですね。例えば、借りた商品の使い方のポイントをアプリ内で手軽に知ることができれば、その商品が持つ魅力をより深く体験することができるはず。やりたいことは次から次に浮かんできます。

ピーステックラボを設立したのは60歳を過ぎてからですが、今のところ、リタイアするという発想も、仕事を離れてのんびりしたいという願望も全くないですね。働いているというより、探求心のままに好きなことを追い続けている、といった方が正しいかもしれません。世の中を少しでも良くできる可能性がある限りは挑戦を続けたい。「アリススタイル」が暮らしに欠かせないライフラインのように、当たり前のサービスとして生活に根付いている未来を実現したいですね。