INTERVIEW

NPO法人 東京里山開拓団 代表 堀崎 茂

八王子にある里山との出会いを契機に、2009年同団体発足。現在は週3日の企業人生活と、ライフワークとして東京里山開拓団の活動に励む。マインドフルネス講師としても活躍。第8回グッドライフアワード 環境大臣賞 最優秀賞受賞。

ありのままでいられる
心豊かな社会を目指して。
子どもたちと共に切り拓く、
里山保全とふるさとづくり

「よりたくましく、よりすこやかに」という運営方針のもと、東京都八王子市美山町にて、環境保全と児童福祉の両側面から活動を続けるNPO法人 東京里山開拓団。代表の堀崎氏に、活動のきっかけや、里山がもたらすさまざまな恵みについてお聞きしました。

荒れた山林を自力で開拓

“こうあるべき”から
解き放ってくれる
里山の「人の心を開く力」

私たち東京里山開拓団は、児童養護施設の子どもたちとともに東京周辺の荒れた山林を伐り拓き、自然の恵みを活かして自らのふるさとを創る活動を推進するボランティア団体です。これまで3つの児童養護施設と約70回の里山開拓を実施し、延べ400名の子どもたちが参加しています。

もともとアウトドアやDIYが好きで、山登りもよくしていましたが、きっかけとなったのは、転職を機に名古屋から東京に引っ越してきたことです。東京での慌ただしい企業人生活に徐々に息苦しさを感じるようになり、自分を見つめる時間がほしいと思うようになったんです。ちょうどそのころ、親類が八王子に荒れた山林を持っているという話を聞き、おもしろそうだなと、行ってみたのが始まりでした。2006年のことです。

数十年も手つかずの山林は、藪が生い茂り、人が入るのも難しい状況でした。それを1日に数十メートルずつ切り拓いて道を作り、広場を作る。全身泥まみれ、汗まみれ、虫にもさされながら、約2年間、一人で黙々と進めていきました。大自然と向き合いながら自分の思い描いていたものが少しずつカタチになってくると、なんとも言えない喜びを感じました。

小さな娘を背負っては家族で通い、展望台も作って花見でもやろうと友人を誘うと、「こんないいところないね。また来たい!」と想像以上の反応をしてくれる。「なぜ、こんなにみんなが喜んでくれるのか」、その理由を考えてみると、私と同じ状況だったのかなと思い当たりました。社会の中で生きるということは、こうあるべきだ、これはいい、これはダメだという様々な固定概念やルールに合わせていかなければならず、ゼロベースで考えるというのはなかなか難しい。でも、里山にいる時は、今の状態がありのままの自分ではないかと思える、そんな時間がふんだんにあることに気が付きました。そして、もっと突き詰めて考えていくと、里山がもたらしてくれる一番の価値は「人の心を開いてくれる力」という答えにたどり着いたのです。里山にはカウンセリングなど人為的な力をはるかに超えたものがあって、ただそこにいるだけで自然と心が開かれていく。そう確信しました。

価値を伝えたい相手

児童養護施設の子どもたちの
心を支える、ということ

そして、自分や家族、友人だけで楽しむのではなく、誰に提供すれば里山の価値を感じてもらえるのか。まっさきに浮かんだのが、児童養護施設の子どもたちでした。学生時代に経験した、不登校児や児童養護施設の子どもたちへのボランティア活動がとても印象深かったからです。

家族からの虐待や養育放棄、貧困などで、児童相談所の判断、家庭裁判所の法的手続きを経て施設にやってきた子どもたちへの支援はいろいろありますが、お金だけでは解決できないことは多々残っています。それは子どもたちの心を支えるという点です。本来それは、「ふるさと」としてあるべきものだと思いますが、小さいながらも自分を抑え続けてきた人生を送っている子どもたちが、ありのままでいられる場所を一緒につくっていければ、という思いが当団体の活動起点となりました。

児童養護施設との取り組みは施設探しから始まりました。メールや訪問で主旨を理解していただくまでに時間がかかり、地道な活動がようやく実を結んだのは2012年。団体立ち上げから3年後でした。

子どもたちとの里山開拓

楽しいから参加する。
子どもたちの純粋な姿が、
里山保全の本質的な
あり方を示してくれる

私たちの活動の大きな方針は、そこにある自然の恵みを活用し、子どもたちと共に試行錯誤しながら創り上げていくことです。遊びの場を提供しますよといったスタンスでなく、「一緒に楽しみながら、ふるさとをつくる」という取り組みです。里山の木を使った工作や手づくりのかまどで料理を作ったり、参加した子どもたちからは、「次も絶対に行きたい」「自分の家みたいなところ」「自由な世界!」といった声をもらい、施設では「次に誰が行く?」と競争にもなっています。虐待を受けて親と離れて暮らさなければならない、施設に来るほかなかった子どもたちから発せられるその言葉はとても重いのですが、私にとっては最大限のほめ言葉となっています。

薮を伐り拓いてトイレを作ったり、綱引きをしたり、子どもも大人も一緒になって里山時間を楽しみます

環境保全面についても、子どもたち自らが率先して根っこ掘りをするなど、のびのびと里山を楽しんでいます。大人はCO2削減や生物多様性保全など理屈をこねがちですが、頭で考える活動だとおそらく続かない。里山保全で最優先すべきことは理屈どうであれ、続けていくこと。続けない限り里山は再び荒れ、場合によっては以前より悪い状態になってしまいかねません。楽しいから参加する、ワクワクするからから通い続ける。そうした子どもたちの純粋な姿は、里山保全の本質的なあり方を指し示してくれているような気がして、同時にとてもうれしく感じている点です。

「里山」を軸に広がる活動

コロナ禍にあって、
施設の子どもたちだけで
通える
里山付き別荘
「さとごろりん菅生」をオープン

現在は、環境保全と児童福祉を一石二鳥で取り組む活動を柱に、それを支える3つの活動を展開しています。

一つは、児童養護施設の子どもたちの心をダイレクトに支えていきたいという声があがり、学生支部が立ち上がりました。大学生が施設訪問やオンライン交流を通じて、里山の楽しさを伝えたり、子どもたちの趣味や関心をもとに、里山でどんなことをやろうかと一緒に考えたり。遊びやおしゃべりを取り入れながら実施しています。

二つめは、企業向けの里山研修事業です。児童養護施設との里山開拓で発生する経費は助成金や寄付で賄ってきましたが、「よりたくましく、よりすこやかに」という方針に立ち、自分たちで運営資金を生み出そうと、2019年より始めました。開拓体験による社会貢献、焚火料理を通じたチームワーク研修、マインドフルネスやヨガ、といった3つのプログラムからなっており、詳細は企業様の目的に応じてすり合わせの上決めていきます。3密を避けた里山で実施する会議や研修は、心を開き、視野を広げ、いろいろな気付きをもたらしてくれますので、たくさんの企業様に活用していただければと思っています。

三つめは、里山紹介サイトの運営です。全国に荒れた山林は九州全土以上にあると言われていますが、「里山ってどこにあるの?」とちょっと興味を持った時に調べたいと思っても、気のきいたサイトがないんですね。そこで、ネット上の里山に関する情報を集めて地図上に表示できるようにすれば、里山を活用したいという人も増えるのでは、と始めた活動です。最近では在宅でできるボランティア活動として大手企業様から声をかけていただき、プログラミングや運用の知見がある方が加わっていただいたことで、効率性が格段に上がり、今後の展開も考えられるようになりました。

また、コロナ禍で施設の子どもたちが外出できないという事態のなか、何かできないかと考え、児童養護施設だけで通える里山付き別荘「さとごろりん菅生」を今年7月にオープンしました。築数十年の空き家を改修したため、手を入れる必要はまだまだありますが、そちらも大好評で、いずれは企業向け研修の場としても活用したいと考えています。

今後について

里山を心から楽しみながら
ありのままの自分でいられる
場をつくり続けていきたい

今後は、児童養護施設からの問い合わせが増えているため、東京に新たな里山の拠点を設けて活動を広げること。そして、各地の里山保全団体や児童養護施設支援団体と連携することで、同じような取り組みを全国で立ち上げていきたいと思っています。自立的なNPO運営が一つのモデルになるよう力を尽くしていくことも目標のひとつです。

昨今、SDGsという言葉が注目を浴びるなか、大切なのはそれがPRにとどまるのではなく、どれだけ地道にやり続けて、何のために、誰にどう貢献しているのかということを突き詰めて考え続けることだと思っています。当団体においても同様です。里山の持つ「人の心を開いてくれる力」を生かして、児童養護施設の子どもたちと共にありのままでいられる場をつくり続けていきたい。同時に荒れた山林を里山として保全し続けていきたい。なにより私自身が参加する誰よりも里山を楽しんでいますので、共感してくださる方々のお力もお借りしながら活動を継続、拡大していきたいと思っています。


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