INTERVIEW

セレンディクス株式会社 CTO 緒方 海斗

プロジェクトの立ち上げから、日本初のイノベーション「3Dプリンターによる家づくり」に携わってきた緒方氏。100社を超える開発コンソーシアムを牽引し、新しい概念の住宅を世に送り出したメンバーの1人で、現在沖縄在住。

常識にとらわれない共創力で、
世界の住宅事情を変える。
日本初「3Dプリンターの家」に
込められた思い

2022年3月に完成した、3Dプリンターの家「Sphere(スフィア)」。10㎡の広さで、完成までの所要時間が約24時間。価格が300万円という常識を打ち破る家づくりで、住宅ローンのない自由な世の中を実現するセレンディクス社の緒方CTOに、その開発ストーリーを聞きました。

社会課題の解決がコンセプト

住宅ローンに縛られることなく自分の家が手に入る世の中へ

2019年12月、私は『世界最先端の家をつくるプロジェクト』にジョインしました。発端は、住宅ローンをなくし、誰もがもっと自由に生きていける世の中にしたいと考えたこと。代表の小間が目指すものに、「移・食・住」の社会課題の解決があり、移については既に日本初のEVスポーツカーの開発に成功し、現在は物流特化のEV開発・販売に取り組んでいます。新たな挑戦として、「住」のプロジェクトを手がけることにしたのです。

愛知県小牧市に完成した、3Dプリンターの家
「Sphere(スフィア)」

みなさんは、現在の日本人における住宅ローンの平均完済期限をご存知でしょうか? なんと73歳です。マイホームを手にしたとしても、その歳までローンの支払いに追われ、人生の自由を奪われてしまうわけです。世界中の人が同じような思いをしているはずで、ローンに縛られることなく自分の家が手に入り、一度しかない人生をもっと自由に生きていける世の中にしたいと考えました。

そこで、3Dプリンターを使った住宅建築方法によって、建築コストの常識を変える「100平米300万円の家」をつくることを発案しました。従来の概念を打ち破る、圧倒的な低価格の家を実現することで、住宅ローンを組むことなくマイホームを建てることができる――。そんな次世代住宅の開発によって、世の中の常識を変えていきたいと考えたのです。

オープンイノベーションという発想

自社でできない部分は、できるノウハウをもつ他社の力を借りればいい

私たちがプロジェクトに着手したとき、海外ではすでに、3Dプリンターを使った家づくりが進められていました。ただ、3Dプリンターを使ってはいるものの、出力するのは家の部分的な部材だけで、十分なメリットが得られたとは言い難いもの。価格もそれほど下げられてはいませんでした。

そこで、家のすべてを3Dプリンターで出力できないか…と検討を重ねた結果、球体の構造物ならそれが可能であるとの結論に至ったのです。球体の家であれば、土台から屋根全体までを3Dプリンターで出力できることが分かり、さらなる設計・開発を進めていきました。

当時、日本ではまだ誰も、住宅を3Dプリンターでつくる…という発想を持ち合わせてはいませんでした。まったくのブルーオーシャンである一方で、3Dプリンターのデジタルに関する知識はありましたが、施工に関する十分な知識がなく、当社だけでまかなうのは難しい面がありました。

そこで考えたのが、国内・海外の企業とコンソーシアムを組み、開発を進めていく手法です。つまり、自社でできない部分は、できるノウハウをもつ他社の力を借りるということ。各社の強みを持ち寄るオープンイノベーションによって、「家を24時間でつくる」という開発目標の達成を目指したのです。

「水平分業」による家づくりの実現

開発コンソーシアムはすでに100社を超える規模に拡大

従来の常識にとらわれず、「できるところと組む」という思考は、当社のメンバー間で共有しているコンセプトのひとつです。「優秀なパートナーシップを組んで、自社でできないことはやろうとしない」「異能人材を排除するか、チームに入れてともに働くか。アイデアの差は、そこしかない」と弊社COOである飯田も話します。固定観念に縛られず、足りない要素は外部と共創して前に進むことでイノベーションが生まれると考えているわけです。

創業メンバーに施工の専門家がいない中でスタートした当プロジェクトは、各住宅施工会社に「住宅ローンのない世の中を創りたい」との想いを丁寧に伝え、理念に賛同した企業に参画してもらうことで共創の輪が広がっていきました。

そして今、開発コンソーシアムはすでに100社を超える規模にまで拡大しています。当社は設計・開発に特化し、3Dプリンターはオランダのメーカーとの協業です。施工は複数の住宅施工会社とのコラボレーションで行い、「水平分業」による家づくりを実現しました。

ちなみに家のデザインは、NASAの火星移住プロジェクトのデザインなどで世界的に著名な曽野正之氏とオスタップ・ルダケヴィッチ氏の「Clouds Architecture Office」に依頼しました。こうした共創において、世界一厳しいと言われるヨーロッパの断熱基準をクリアする壁面2重構造、さらに地震国である日本基準の耐震機能など、先進の技術が詰まった「Sphere(スフィア)」が完成したのです。今後は、オフグリッドシステムやIoT、パーソナルロボット等、機能面でも世界最先端の家をめざしていきます。

ゼロベースからのスタートだった

施工の専門家でないからこそ実現できたプロジェクト

当社は、3Dプリンターのメーカーでもなければ、住宅会社でもデベロッパーでもありません。あらゆる社会課題の解決に事業軸を置くスタートアップ企業です。けれども、施工の専門家でないからこそ、3Dプリンターで家をつくるという未来型のプロジェクトを進めることができたと考えています。

建築業界の中にいると、きっと「3Dプリンターなどで家が作れるはずがない」という固定観念が生まれがちだと思います。そんな先入観が、“素人”である我々にはまったくありませんでした。あったのは、「世の中に新しい価値を創りたい」「やればできるはず」というシンプルな想いだけだったのです。

さらに、世界最先端の家をつくるというイノベーションにおいて、私たちは独占的に利益を得るという考えは皆無でした。あくまでも目的は社会課題の解決であり、だからこそみなさんと一緒にコンソーシアムを組み、従来の概念にとらわれないオープンイノベーションの形でプロジェクトを進めることを選んだのです。こうした思考を持てたことが、前例のない挑戦を可能にしたのだと思います。

従来の常識を打ち破る挑戦とは

できないのは、やらないから。やり続けているうちは失敗ではない

私自身に「やればできる」という想いを刻んでくれたのは、大学3年のインターンシップでの、飯田との出会いでした。初めて会ったとき、いきなり彼から「君の将来の夢は何ですか?」と聞かれたのです。私はすぐに想いが出て来ず、「ないです」と答えました。すると飯田は、「ないことは絶対にないはず。周りからできないと言われてきて、勝手にそう思い込んでいるだけだ。今回のインターンシップは、やりたいことを思い出す機会にしなさい」と言ったのです。

インターンシップが終わるとき、私は「ホテル事業に携わりたい」との想いを飯田に話しました。同時に「でも資金もないし、無理です」とも。すると半年後、彼から突然電話がかかってきたのです。「つぶれかけたホテルがあるのだけど、マネージャーをしてみないか?」というオファーでした。私は何も考えず、「行きます」と即答し、海外に渡ってホテルの立て直しに奔走したのです。

それが私にとってのビジネスのスタートでした。できないのは、やらないからに過ぎない。やり続けているうちは、失敗ではない――私自身はもちろん、今も当社のメンバーが共有する想いとなっています。

フジツボモデル完成予想図
(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター 益山詠夢)

グランピングや別荘利用としてスタートをきった「Sphere」は、2023年12月には一般向けの居住用住宅を発売する予定です。また、慶應義塾大学の研究機関との共同プロジェクトで進めている、49㎡・500万円の通称「フジツボハウス」は、2023年春には販売開始の見込みです。いっそう変わりゆく世の中で、住宅ローンに縛られない自由を多くの人に手にしてほしい。その実現に向けて、「できないことはない」という想いでこれからも邁進していきます。