INTERVIEW

株式会社しくみデザイン 代表取締役 中村 俊介

ビジュアルプログラミングアプリ「Springin'」やAR楽器「KAGURA」など直感的で革新的なプロダクトを開発し、世界各国で30個以上のアワードを獲得。福岡県プログラミング教育推進委員も務める。2005年、株式会社しくみデザインを設立。

時代の数歩先を進み続けた
しくみドリブンで
ものづくりの“シキイ”を
下げる世界をつくる

ユーザー参加型コンテンツのパイオニアとして、業界の最先端を走り続けてきた株式会社しくみデザインは、2005年に福岡で産声を上げました。数々のコンテストでの受賞歴をはじめとした輝かしい実績には、それを裏付けるフィロソフィーがあります。今回は同社代表取締役の中村俊介氏にお話を聞きました。

会社の起源は大学院に

最後まで自分の手で
つくりたい 
その想いに従って大学院へ

しくみデザイン設立のきっかけは、元を辿れば僕が九州芸術工科大学の大学院生だった時代にさかのぼります。元々はものづくりが好きで名古屋大学の建築学科に通っていたのですが、学びながら「僕がやりたいことは建築とは違うかもしれない」と気づきました。というのも、建築は一つの建物をつくるのにたくさんの人が関わって、ようやく完成しますよね。それよりも、「最後まで自分の手でつくり上げたい」という思いが強くなったんです。

九州芸術工科大学がある福岡には、何の縁もゆかりもありませんでした。もちろん親も大反対。それでも、当時まだやっている人の少なかったメディアアーティストとして作品づくりができる環境がそこにはあったので、「ここだ」と思って単身福岡へやってきたんです。

そして大学院生だった2003年に開発したのが、体の動きをカメラでリアルタイム解析し、その動きで音楽を鳴らすAR楽器の「KAGURA」という作品です。これで特許を取ることができ、福岡県からヤングベンチャー支援事業に採択され、大学発のベンチャー企業として立ち上がったのが「しくみデザイン」でした。

起業、そして数歩先を進むビジネス展開

時代が追いついてきた 
だからこそ生まれた葛藤

ただ、会社を立ち上げた2005年当時は、まだスマホもない時代。もちろんAR技術や今では当たり前になったデジタルサイネージという媒体すらありませんから、当初は自治体の補助金を活用した事業を受注したりしながら運営していました。そういうことを数年やっていると、ようやく時代が追いついてきて「ARを使ったプロジェクトを一緒にやってくれる会社はないか」と調べる企業が出てきた。すると僕らの会社がWebでヒットするわけです。

一番のインパクトだったのはフジテレビの番組「笑っていいとも!増刊号」で、未来のデジタルサイネージとして当社の参加型コンテンツを紹介してもらった時のこと。その反響は想定以上で、それから阪神甲子園球場のオーロラビジョンで、お客さんが参加できるインタラクティブ広告をつくって、カメラに映し出されるとタイガースファンが虎に変身する仕掛けを考えたりしました。

先ほど「時代が追いついてきた」とお伝えしましたが、まさにその通りでどんどん「こんなARはつくれないか」「こういうインスタレーションはできないか」といった受注の仕事が増えてきました。けれども、同時にそういったものづくりの会社はほかにも増えてきますし、依頼自体も、下手をすると過去5年前に自分たちがつくったものの焼き増しのようなものを頼まれたりもする。それはこの領域がコモディティ化した証ではあるんですが、やっぱり僕はそれでは「つまらないな」と思うようになりました。

しくみデザインの軸

原点に返るために 
もう一度
「KAGURA」をつくる

もちろん、僕もものをつくるのはとても好きです。でも、それよりも好きだったのが「何かをつくる“方法”を考えること」でした。なぜそれができていて、どういった仕掛けでそれが完成するのか——そういった原理を解き明かすことができれば、今でも結果的にものをつくらなくてもいいとさえ思っています。数学なんかも、必要最低限の公式だけ覚えて、問題を解いている最中に自分方程式を作って解いていたような学生でしたからね。

だからこそ、もう一回自分の手でゼロからつくった「KAGURA」をつくり直そうと思いました。演奏できるだけでなく、音源までもつくれるようにアップグレードした「KAGURA」は、2013年にはインテルのコンテストで世界一を受賞します。けれど、そもそも「KAGURA」を生かせる市場がなく、コアなファンはいてもビジネス化することはできませんでした。

KAGURAは、16カ国2800作品がエントリーした
「Intel Perceptual Computing Challenge」で
グランプリを受賞

でも、やっぱりしくみデザインはものをつくる——つまり、受託だけの会社にはしたくなかったんです。片手間ででも、ちゃんと自社で面白い“しかけ”をつくりたい。その方が絶対楽しいと確信していました。そこで2015年にプロトタイプができたのが、誰もが簡単にスマホやタブレットさえあればゲームなどのデジタル作品をつくってシェアできるクリエイティブプラットフォームの「Springin’(スプリンギン)」です。

「Springin’」ができるまで

「シキイを下げる」ことが 
「つくってみたい」を
後押しする

実は「KAGURA」も「Springin’」も根底に流れている思いは同じで、それが当社の3つの行動指針の一つでもある「シキイを下げよう」というものです。あとの2つが「カキネを越えよう」と「ワクワクを共有しよう」。中でも一番僕がファーストステップとして大事だと思っているのが、1つ目の「シキイを下げよう」ということ。

誰でもそうですが、やっぱり「敷居が高いな」と感じるとチャレンジの一歩すら踏み出せないものです。僕らが扱っているようなデジタルコンテンツも、例えば「プログラミングって難しそうだな」と思うと、つくりたい気持ちが「難しそう」という気持ちに負けてしまう。「KAGURA」も、元々楽器が弾けなかった僕が「音楽を演奏してみたい」という想いから開発がスタートしたプロダクトでした。

「Springin’」を開発し始めた2015年ごろには、創業当初僕と同じ学生だったメンバーも子どもが生まれて、ライフステージも変わっていました。その時「この子どもたちにものをつくることの楽しさを教えてあげるにはどうしたらいいか」「どうすればクリエイティブなことにハードルを感じずに、親しめるだろうか」を考えた時、敷居を下げるための“しくみ”をつくろうと思ったんです。

そうしてスクラップアンドビルドを繰り返してできたのが、今の「Springin’」。プログラミングを知らなくても、絵を描いてそれを動かしたり、音を出したりして、誰でもゲームがつくれるような“しくみ”が完成しました。

コラボレーションの妙味

企業とのファンづくりの
きっかけにも 
「Springin’」の可能性

「Springin’」が脚光を浴びるようになったのは2019年。ちょうどSTEAM教育の一環で小学校でのプログラミング必修化が決まっていた2020年を前に、「いいツールがあるぞ」と話題になり、ダウンロード数が突然8倍になったことがありました。これが、自社プロダクトでビジネス化ができると思ったきっかけです。

ただ、「Springin’」は何も教育の現場だけだとか、子どもだけを対象としたプロダクトではなくて、「ずっとゲームをつくってみたかったけど、言語とか分からなくて諦めてしまった」、そんな大人にも使ってもらいたいものなんです。それに、先ほどの当社の行動指針の一つにもあったように、せっかくみんながつくったものをシェアして、ワクワクを共有できる場もつくりたかった。だから「Springin’」はつくったものを共有できるコミュニティとしての機能も備えています。

それに、「Springin’」では今、定期的にいろいろな企業とコラボレーションもして企画を立ち上げているんです。例えば「ふくや」さんや、北九州発祥の「資さんうどん」さんなど、明太子やうどんをテーマにしたゲームをユーザーにつくってもらうコンテストを実施しています。受賞者にはもちろん副賞があるのですが、参加者にとっては「自分の作品を評価してもらえる」「第三者に遊んでもらえる」というのがとても大きなモチベーションになっていると思います。

逆に、企業側にとってのメリットはというと、参加者はなんとか面白いゲームをつくろうとして一生懸命その企業のことを調べるわけです。するとみるみるうちにその会社のことが好きになって、その思いを自分がつくるゲームで表現したくなる。参加することが企業のファンづくりにつながっているんですね。それに、コラボレーションの相手はプログラミングといった業界から遠く離れれば離れるほどいい。なぜなら、縁遠い業界だからこそ化学反応が生まれ、面白いプロジェクトになるからです。これが「Springin’」のコラボレーションの醍醐味だと思います。

やっぱり「楽」という文字が好き

「つくりたい」想いは
国境を越える 
しくみデザインが描く未来

会社を設立して18期目を迎える今、「Springin’」自体も徐々に芽が出始めている感覚があります。ユーザーも増えてきていますし、作品のクオリティーも右肩上がり。ですから、「Springin’」をこれからは「まず何かをつくりたいと思った人類にとって、最初のツールにする」ことが目標です。ものづくりには国境もないし、非言語的な領域だからこそ、「Springin’」は世界中の人が楽しめるものだと思っています。

結局、やっぱり僕は「楽」という文字が好きなんです。「難しいことでも楽をするためのしくみ」や「苦労せずに楽しめるしくみ」をつくりたい。それは僕が大学院生の時、初めて「KAGURA」をつくった時から変わらない想いだと思います。

だからこそ、これからも僕らしくみデザインがつくるプロダクトで「シキイ」を下げて、「カキネ」を超えて、「ワクワク」を共有する。そんな世界をつくっていきたいと思います。