INTERVIEW

フォトグラファー 竹内 裕二

広島県出身。ホンマタカシ氏に師事、2016年に株式会社 BALL PARK設立。
雑誌、広告等を中心に数々の女優、俳優、モデルを撮影。
ファッション動画、YouTube、イべントのディレクションを手掛ける。
24年からは、日本の伝統工芸やものづくりの魅力を発信する取り組み「DON’T YOU KNOW?」のイベントをプロデュースする。

伝統工芸の新しい世界観をイベントを通じて発信。
日本の良いものを日常の中へ、次の世代へ

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ファッション誌や広告を中心に活躍するフォトグラファーの竹内裕二氏。近年はアパレルブランドとコラボしたファッションアイテムの制作や、動画のディレクションも手がけるほか、日本の伝統工芸に新たな角度から光を当てるイベントにも注力しています。異分野へと活動の幅を広げてきた経緯や、そこで得たものについてお話を聞きました。

「DON’T YOU KNOW?」

漆器からEV車まで、広島の多彩な職人技が一堂に

本業のフォトグラファーの仕事と並行して、日本の伝統工芸やものづくりの魅力を発信する取り組みにも力を入れています。2025年5月には「DON’T YOU KNOW? HIROSHIMA COLORS」と題したポップアップイベントを東京ミッドタウンで開催しました。

このイベントを共同で企画・プロデュースしている村上由一君は、僕の幼馴染で、広島県呉市で包丁のセレクトショップを運営しています。2人の出身地である広島に、世界を驚かせる職人たちがいることを多くの人に知ってほしい。そんな思いで開催した今回のイベントでは、漆器、筆、包丁、日本酒、家具、さらには広島のスタートアップ企業が手がける一人乗りEV車と、暮らしをとりまく多彩なものを一堂に集め、伝統工芸やものづくりの新しい世界を切り拓いている挑戦者たちを紹介しました。

「DON’T YOU KNOW?」のイベントはこれが2回目で、初回の2024年は福井の伝統工芸にフォーカスした内容で開催しました。実は、この企画に関わるまで僕自身は伝統工芸とは接点がなく、何も知らないところからスタートしたんです。最初の入口は、村上君に熱心に誘われて、福井の越前打刃物(うちはもの)の工房を訪ねたこと。そこで目にしたものの衝撃は大きく、伝統工芸の世界に一気に引き込まれました。

企画のきっかけ

伝統工芸のイメージが180度変わった出会い

そのとき福井で訪ねた先は、黒﨑打刃物さんといって、包丁の世界では知らない人はいないくらい有名な包丁鍛冶職人さんの工房です。まず驚いたのが、工房がすごくモダンできれいで、製造風景がお客さんから見えるようになっていること。そして何より黒﨑さんがつくる包丁の、今までに見たことのない刃や柄の美しさに目を奪われました。ものとして美しく、使っても機能的で気持ちよく切れる包丁をつくり続けたい、という黒﨑さんの言葉を聞いて、自分の中にあった伝統工芸=古めかしいという固定観念がガラガラと崩れたんです。

村上君が広島の宮島で営む包丁ショップには、世界中からお客さんが訪れていて、しかも「黒﨑さんの包丁を買いたい」「どこどこ産の包丁がほしい」と明確な目的を持って来るそうです。これに対して、僕もそうですが、日本に住んでいても包丁の作り手や産地を気にかけない人が大多数じゃないですか。それもあってイベント名の「DON’T YOU KNOW?」には、日本の人に向けて「知っていますか?」と問いかける意味を込めました。

伝統工芸に対して多くの人が持つ「古くて格式が高い」「観賞用で気軽にはさわれない」といったイメージを打ち破りたいんです。作品を会場に整然と展示するだけでは、見る人に「ああ、伝統工芸ね」と流されてしまう。イベントに足を運んでくれた人たちが、鮮烈な体験を通して認識を大きく変えるようなハレーションを起こしたいと考えました。そこで「DON’T YOU KNOW?」の会場構成は2年続けてインテリアスタイリストの作原文子さんにすべて任せました。作原さんのつくり上げた空間を通して、伝統工芸と現代のライフスタイルを融合させた新しい世界観を皆さんに楽しんでもらえたと感じています。

自身に生じた変化

「こうでなければ」という無意識の縛りから自由に

「DON’T YOU KNOW?」の企画・プロデュースのほかにも、ここ数年は、アパレルブランドとコラボしてファッションアイテムを制作したりと、写真以外にも活動の幅が広がっています。振り返ると、コロナ禍で考える時間ができたことが一つの転機になりました。それまではありがたいことに、撮影の依頼を途切れることなくいただいて、来た仕事にしっかりと向き合う気持ちでやってきました。ただ、そうした毎日を重ねるうちにだんだんと自分がすり減ってきている感覚があって。新しいものを表現したくても自分の内側が空っぽで出てこないと感じることもありました。でも自分は撮り続けるしかないと、それこそ固定観念に縛られていたんです。

コロナの最中にふと立ち止まり、自分って何だろう、何が好きなんだっけ、と考えたとき、浮かんだのが野球でした。小学生の頃から野球をしていて、仕事を始めてからもアメリカロケの機会にはメジャーの球場に足を運んで、そこで出会った光景を写真におさめてきました。そんな自分の原点を見つめ直す気持ちで、これまで球場で撮りためた写真を集めて、故郷の広島と東京で写真展を開き、写真集も出しました。それを機に、今までの雑誌や広告の撮影の仕事とは違う、別の世界がひらけていったんです。

その後、「DON’T YOU KNOW」の企画で、新しい挑戦を続ける職人さんたちに会うなかで、僕自身が伝統工芸に対してだけでなく、ほかのいろいろなことに対しても固定観念に縛られていたことに気づかされました。フォトグラファーは写真しか撮っちゃダメなんて誰も決めていないのに、自分で無意識に枠をつくっていたんですね。それに気づいてからは、面白そうだと思ったらまずやってみるを信条に、作品をプリントしたTシャツをつくってみたり、好きな野球をモチーフにしたキャップをリリースしたり。最近は、広島の魅力を発信する「HIROSHIMA LOVERS CLUB」という新しい企画も進めています。

職業が2つ以上あったっていいし、活動する場所も「東京か地元か」みたいに二者択一の時代ではもうないと思うんです。伝統工芸の職人さんの中にも、地元に工房を構えながら東京にも生活拠点を置いて、異なる分野の人たちとの交流から得たインスピレーションをものづくりに活かしている人もいます。そういう姿を見ると、自分自身の生き方の選択肢も広がる気がしていて。好きなものを軸に「あれもやりたい」「こっちもできるな」と、心が動いた方に進んでいく今のスタンスが自分には合っていると感じます。

「自分が楽しむ」を基本に

作る人、使う人が、互いをもっと知るための橋渡しを

元の仕事のフィールドを飛び出して、これまで接点のなかった分野の人たちとの出会いが広がったことで、コミュニケーションにも変化がありました。相手を「この職業の人」として見るのではなく、その人自身がどういうことを考えて、どんな表現を目指しているのかを深く知ろうとするようになりました。まったく違う分野の人の話を聞いていても、それって写真に置き換えるとこうだな、ここは通じるな、と落とし込むことができる。だから、自分で言うのもなんですが、写真家としても一つ腕を上げることができた気がしています。この先も、自分が楽しむことを基本に、それで周りを巻き込んでいけたなら理想ですね。かつて感じていた自分が空っぽのような感覚は今はなく、むしろやりたいことだらけです。

2025年10月には広島の宮島で「DON’T YOU KNOW?」を開催予定で、その準備も進めています。20代で上京して以来、人生のほぼ半分を東京で過ごしてきたけれど、ここへきて地元広島とのつながりが強まったことは心からうれしいし、楽しくて仕方ない。新幹線で片道4時間の距離も、最近は近いと感じるくらいです。

伝統工芸品は、日常の中でたくさんの人に使われてこそ、技が未来に受け継がれていくと思います。だからこそ作り手側は、より多くの人に知ってもらう工夫や努力が重要ですし、使う人の側も、思い込みを持たずに気軽に生活に取り入れてほしいですね。日本にこれだけのすばらしい技術やものがあって、使わずにいるなんてもったいない。「DON’T YOU KNOW?」を通して、作る人、使う人が、互いをもっとよく知るための橋渡し役ができればと思っています。

「DON’T YOU KNOW? HIROSHIMA COLORS」では、
広島の色をテーマに竹内さんが
撮影した作品が
空間に彩りを加え、職人の仕事を引き立てた

クリエイティブコラボは、コラボレーショの力で新しいサービスや価値を創造していきます。
日本文化を次世代に継承するプロジェクトや、メタバース・NFTを活用した地域活性、アートと教育など、さまざまな企画を進行中。
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