INTERVIEW

ITエンジニア・マンガ家 千代田 まどか(ちょまど)

Microsoft米国本社チームに所属するITエンジニアで、国内外において日本語・英語での登壇多数。マンガ家としても活動し、著作にプログラミング言語を擬人化した『はしれ!コード学園』(リクナビNEXTジャーナル)や、『マンガでわかる外国人との働き方』(共著)などがある。

テクノロジーを使って誰もが
クリエイターになれる時代。
人間とAIの共存の道を示せる
エンジニアでありたい

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ITエンジニア兼マンガ家として「ちょまど」のニックネームで活動する千代田まどかさん。Microsoft米国本社チーム所属の社員であり、X(旧Twitter)のフォロワーが9万3000人(2023年9月時点)を超えるインフルエンサーでもあります。文系だった学生時代にプログラミングに出会った経緯や、ちょまどさんが注目するテクノロジーの今・これからなど、お話を聞きました。

Microsoftでグローバルチームに所属

IT開発者と自社サービスをつなぐ橋渡し役

Microsoft米国本社所属のエンジニアとして働く私の肩書は、Cloud Developer Advocateです。これはDeveloper Relations (DevRel) 系の職位の一つで、主な仕事内容は、外部のIT開発者の方々と良好な関係性を築き、Microsoft Azureをはじめとする開発者向けの自社プロダクトをより多くの方々に知っていただくための活動をすること。具体的には、国内外で開かれる技術イベントに登壇したり、技術記事を書いたり、SNSで情報を発信したりと、ユーザーのすそ野を広げていく活動をおこなっています。これは私の個人的な感覚なんですが、開発者の方々も私も、AzureやC#(Microsoft開発のプログラミング言語)といった共通の“推し”をもつオタ友のような関係ですね。開発者の方々とのコミュニケーションを通して私も教わることや発見が多く、刺激に満ちています。

開発者コミュニティから寄せられる声を本社の製品チームにフィードバックし、サービスや技術の向上につなげることもDevRel職の重要なミッションです。アメリカで製品開発に携わるメンバーにとって、自分たちがつくっているものが各国でどのように使われていて、その背景にそれぞれの国のどんなニーズや事情があるのかをすべて把握することは不可能です。そこで私が開発者コミュニティと製品チームをつなぐ橋渡し役となって、日本特有のニーズや事情、現場の開発者の方々の生の声を伝えることで、より良い製品づくりに寄与することを常に目指しています。

この橋渡しの役割を担う上で大切にしているのは、私自身がいちITエンジニアであり続けること。開発者の方々と対等にコミュニケーションを交わし、率直な意見を聞き取るには、同じ土俵に立ってやりとりができるだけの知識や技術を私自身も備えている必要があります。日頃から広く情報のキャッチアップに務め、いろいろな技術を実際に自分で使ってみて、コミュニティの皆さんにも教えていただきながら学び続けることに努めています。

プログラミングとの出会い

描いた絵を多くの人に見てもらいたくてサイトづくりに熱中

Microsoft社員としての仕事に加えて、個人でもマンガを描いたり本を出版したりしています。もともと子どもの頃からマンガ家になることが将来の夢で、趣味で絵を描き続けてきました。大学の入学祝いにパソコンとペンタブを買ってもらってからは、デジタルで絵を描くことに夢中に。描いた絵を世界に発信したいとWebサイトづくりを始めたことが、プログラミングにのめり込むきっかけになりました。

例えば、大学時代、自分のサイトに掲示板を設置したくて、自作の方法を調べているときです。当時、掲示板のつくりかたでネット検索するとソースコードがいろいろと出てくるのですが、書く人によってクセがあることに気づきました。容量を節約するために改行やスペースを極力なくしたコードもあれば、その逆で、インデントをしっかり整えるなど読みやすさを優先したコードもある。関数がモジュール化されてすっきりキレイなコードもあれば、そうではなくずらずらっと記述されたコードもある。全処理 main 関数ベタ書き数百行とか…(笑)。どれも挙動はすべて同じになるけれど、コードの書き方には個性が出ることにすごく面白さを感じて、最初はサイト制作の手段でしかなかったのに、気づいたらプログラミング言語それ自体にはまっていきました。

当時私が通っていたのは女子大の英文学科で、周りにプログラミングをしている人は皆無。Twitter(現X)で知り合った人たちに助言をもらいながら独学を続け、在学中に基本情報技術者試験に一発合格しました。この道をさらに極めたくて新卒でSIerに入社したものの、プログラミングとは程遠い業務内容が合わず3か月で退職。(これは職業調査が足りなかった私が悪いです。)次に社員数20名ほどのスタートアップに転職し、スマホアプリの開発に携わりました。念願だったプログラミングの仕事に没頭できる環境で、やりがいを感じながら毎日コードを書きまくっていました。そこで採用されていた技術スタックが、偶然、Microsoft製品で固められていたのも後につながります。言語は C#, フレームワークは Xamarin (現 .NET MAUI), web は ASP.NET, クラウドは Microsoft Azure、など。

Microsoft入社の経緯

副業で手がけたWebマンガが転職のきっかけに

2社目で仕事が充実したことで気持ちも前向きになり、副業でマンガ家としての活動にも挑戦。プログラミング言語を擬人化したマンガ「はしれ!コード学園」をエンジニア向けWebメディアで連載する機会をいただきました。その後、連載先のWebメディアのイベントに登壇した際に、偶然Microsoftの人が居合わせて、そこから話がつながり採用面接を受けることに。

Microsoftで新しい一歩を踏み出すことは私にとって大きな挑戦でしたが、ぜひやってみたいと思った背景には、開発者コミュニティの方々に恩返しをしたいという思いが強くありました。大学時代、女子大の英文科で孤独にプログラミングを学ぶ日々を支えてくれたのは、ネットでつながった開発者の方々だったからです。ITエンジニアとしての私を育ててくれたコミュニティを、今度は支える側となって発展に寄与したい。この気持ちは今も変わることのない仕事の原動力となっています。

所属するグローバルチームのメンバーは国籍も経歴も多様です。学生時代からコンピュータサイエンスを学んできた人が圧倒的に多いのですが、私のような文系出身者もいますし、医師の資格を持つ人、女優を目指していた人もいます。その女優志望だった同僚は、周りの人を感動させたり驚かせたりすることが大好きで、そのための手段が演技からテクノロジーに変わっただけで、思いは一貫しているんですよね。自社の技術やサービスを通して開発者コミュニティの役に立ちたい、という思いを共有する仲間と仕事ができることに喜びを感じます。

議論を呼ぶ生成AI

人とAIとが創造的に共存する道を模索中

最近の大きな変化として、ChatGPTをはじめとする先端的なテクノロジーやサービスに対して、エンジニアだけでなく一般の方々も高い関心を持ち、日常のニュースでも取り上げられるようになったことは、これまでにない現象だと感じています。エンジニア兼マンガ家として私が特に注目しているのが、AIによるイラストや画像の自動生成です。この技術の登場は絵を描く人たちの間で激しい論争と衝突を引き起こしていて、AIを拒絶したり敵視したりする人も少なくありません。絵師たちが何年も努力して磨き上げたスキルが、本人たちの許可なく学習データとして使われ、作風を模した絵が一瞬で吐き出される。強い怒りも、仕事が奪われるんじゃないかという危機感も、とてもよくわかります。

一方で私自身は、生成AIの登場をテクノロジーの進化として肯定的に捉えています。AIイラスト特有の表現や雰囲気は可愛くて好みですし、髪の広がり方や色の塗り方もきれい。参考にできる要素は多くあると思っています。ただ、イラスト生成AIを使うからもう自分自身では描かなくなる、ということはありません。理由はシンプルに、自分で描くプロセス自体が好きだから。幼いころからお絵描きが好きで、その楽しい部分をAIに代わってほしいとは思わないんです。ただ、全く利用しないわけではなく、例えば、背景絵を出力してもらうとか、絵の勉強にとか、アシストとしてうまく使えたらなど、利用方法を考えているところです。

今は賛否が渦巻いている生成AIですが、この先の大きな流れとして、人間とAIは共存する方向に進むと予測しています。将棋の世界では一足先にこの流れが起きていて、若い棋士の方々が将棋AIを活用して研鑽したり、対局の中継でAIによる形勢分析が紹介されたりと、実際に共存が進んでいますよね。生成AIについても同じような流れが起きるはず。絵も描くITエンジニアとして、イラスト生成AIと絵描きが共存する道を探り、それを体現していけたらと思います。まだ漠然と考えている段階ですが、直近で取り組みたい目標です。

プログラミングネイティブ世代の可能性

変化に前向きな人ほど、人生をもっと楽しめる時代に

小中高でプログラミング教育が必修となり、デジタルネイティブであると同時にプログラミングネイティブでもある世代が育ってきています。先日、中高生対象のアプリ開発コンテストで審査員を務めたのですが、参加者を見ているとクリエイティビティがとても豊かで、プログラミングに対する抵抗感もありません。ハサミやのりを使うのと同じような感覚でアプリ開発ツールを使いこなして、アイデアをかたちにしています。

プログラミングは、手を早く動かせる人、とにかく何でもやってみる人が結果を出しやすい世界です。だからこそ、「難しそう」「自分には無理」といった拒否反応なしに、「よし、やろう!」と軽やかに挑戦できる世代が育っていることに希望を感じます。プログラミングネイティブ世代が社会に出る頃にはきっと、年齢や性別、職業を問わず、誰もが気軽に最新の技術やツールを使っていろいろなものをつくれる世の中になるだろうな、と。新しいものにアレルギーを持たず、変化の波に乗っていける人ほど、人生をより楽しめる時代なんだと思います。

私自身がこの先に目指すのは、そのときどきの最新テクノロジーを開発者コミュニティの方々と一緒にわいわい楽しんで学びながら、皆さんのクリエイティビティを伸ばせるようなエンジニアであり続けることです。それと同時に、今はマイノリティである女性ITエンジニアを増やしたいという思いもあります。ITの仕事を子どもたちから憧れてもらえる職業にしたいですし、プログラミングに興味を持った子どもたちが性別を問わず将来の道として「ITエンジニアもいいな」と思ってもらえるような、身近なロールモデルの一人でありたいですね。これからも、自分らしく、楽しく活動する毎日を発信し続けたいと思っています。

クリエイティブコラボは、コラボレーショの力で新しいサービスや価値を創造していきます。
日本文化を次世代に継承するプロジェクトや、メタバース・NFTを活用した地域活性、アートと教育など、さまざまな企画を進行中。
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