INTERVIEW

Woman Creators College 代表/絵本作家 松本 えつを

出版社勤務を経て独立後、デザイナー、ライター、イラストレーター、出版プロデューサーなど、本づくりにおけるマルチプレイヤーとして活動。「ウーマンクリエイターズカレッジ」を設立し代表を務める。『ユメカナバイブル』(ミライカナイブックス)など著書多数。

表現力と発信力を持つ
女性クリエイターが連携。
「絵本」という魅力ある
ツールで課題解決に挑む

クリエイターを目指す女性のための学校を設立・運営し、女性の自立支援活動に力を注ぐ、絵本作家の松本えつを氏。「CREATIVE COLLABO」のパートナークリエイターでもあり、絵本を用いた企業の課題解決の取り組みでも多くの実績があります。学校設立の経緯や、絵本が持つ力についてお話を聞きました。

女性限定の学校を設立

自己実現に
まい進する日々を
根底から変えた
人生のターニングポイント

私が代表を務める「ウーマンクリエイターズカレッジ」は、国内初の「女性×クリエイター」に特化した学校です。これまでに200名を超える卒業生を送り出し、現在は18・19期生の生徒さんたちが学んでいます。この学校の前身にあたる「東京クリエイターアカデミー」を立ち上げたのは2009年。きっかけは、その前年に出産を経験し、働きながら子どもを育てる女性たちが直面する日本の社会の生きづらさを、私自身が身をもって実感したことでした。

当時はちょうど、救急搬送中の妊婦が病院をたらい回しにされた出来事が社会問題化したころです。妊娠や出産、子育てに際して女性たちがさまざまな困難やリスクに悩む社会の現状があるのに、根本的な解決に取り組まないまま、国は子供を産むことを奨励している。大きな矛盾に、疑問と怒りを覚えました。そんななか、出産から半月後に突然の大出血で生死をさまよう経験をしたことも、人生観を揺るがしました。それまでの私は、中学生のときに心に決めた「本をつくる人になる」という夢を一心に追い、実際にそれをかなえ、やりがいを持って本づくりに打ち込んできました。それが、瀕死の状態から生還するという体験をして、これまでのような自己実現を追求する人生ではなく、社会を変えるために何かをしたいと強く思ったのです。

今まで「本をつくること」にすべてを注ぎ、それ以外は基本的に切り捨てて来た私が、社会を変えるにはどうすればいいのか。考え抜いた末にたどり着いたのが、女性クリエイターたちが相互に連携しあいながら仕事ができる組織をつくることでした。自らの思いを表現するスキルを持った女性を増やし、表現したものを発表する場や機会を用意することができれば、私一人が本をつくり続けるよりも、ずっと多くの人にメッセージを届けられるはず。その先に、今の生きづらい社会が少しずつでも良い方向に変わっていくかもしれないと考えたのです。

カレッジの特色

絵の経験は不問。
プロのクリエイターとして
活動するために必要な
ノウハウをすべて共有

ウーマンクリエイターズカレッジでは、絵本作家を養成するコースでも、入学時点で絵の経験は問いません。1年間のカリキュラムを通して、絵本の制作スキルだけでなく、企画の作り方やプレゼンの仕方、編集やDTPの技術、営業活動など、プロのクリエイターとして活動していくために必要なあらゆるスキルとノウハウを学ぶことができます。

2016年には念願だった、女性クリエイター専門のエージェント「ウーマンクリエイターズバンク」を設立。ウーマンクリエイターズカレッジを卒業後、バンクに所属して活動するクリエイターはすでに100名を超えました。案件ごとにクリエイターがチームを組み、経験豊富なディレクターが制作指揮を担うプロジェクト方式をとっています。これにより、子育てや介護などで制約がある女性でも相互にフォローし合って仕事を進めることができ、そうした女性クリエイターの力を必要とする企業さまにも安心して依頼いただけます。個々のプロジェクトをスタートさせる際には、バンク所属のクリエイターから参加希望者を募り、課題を設定してコンペを実施した上でメンバーを選出しています。

絵本の力

言葉にされない
“行間”の想いを
ストーリーとビジュアルで
読み手に届ける

絵本というツールを使い、これまで多くの企業さまの課題解決をお手伝いしてきました。ウーマンクリエイターズバンクが女性クリエイターに特化した組織ということもあり、女性がメインターゲットの商品やサービスのプロモーションを目的とする絵本の依頼が多くあります。また、企業の理念やビジョンを社員に浸透させたいと考える企業さまが、社内向けの啓発ツールや採用活動に絵本を使うケースも増えています。

子ども向けのものと思われがちな絵本ですが、実はビジネスの場面でも課題解決に力を発揮する有効なツールになります。その一つ目の理由は、情報を読み手にわかりやすく伝える手段として優れていること。絵と短い文章の組み合わせによって効果的に情報を伝えることができ、さらに、それらがつながった1冊の絵本としてもストーリーを表現できるため、届けたいメッセージを読み手に伝えるチャンスが広がります。

企業が掲げる理念やビジョンの言葉は、経営層の人たちが議論して出した、言わば「結論」の部分です。でも社員にとっては、結論だけを伝えられても心に響きにくいですよね。世に出るサービスや商品も同じで、その「完成品」に至るまでの試行錯誤や込められた作り手の想いは、消費者にはなかなか見えてきません。かといって、いきさつを長々とWEBで公開しても読んではもらえないでしょう。そうした、言葉にされない“行間”にある想いや、商品・サービスの裏側にあるものを、ストーリーにして読み手に届け、共感の輪を広げられるツールが絵本なのです。

絵本が有効な二つ目の理由は、ハードカバーの絵本の仕様にすることで、一般的なパンフレットなどに比べて、手に取って読んでもらえる確率が圧倒的に高まること。さらに、読み終えたあとに取っておかれることが多いのも絵本ならではです。加えてもう一つの理由として、絵本は「やさしさ」や「温かさ」のイメージを強く伴う媒体であること。絵本を情報伝達ツールに採用するという選択そのものが、企業イメージの向上につながり得るのです。実際に社内啓発に絵本を利用した企業さまの例では、特に女性社員から「会社が絵本という手段を選んだことがうれしい。私たちに向き合ってくれていると感じる」という喜びの声が寄せられています。

ストーリー設計

アイデアは「降ってこない」
を前提に
ロジカルな思考で
ストーリーを紡ぎ出す

企業さまからのご相談に、絵本というツールで解決策を提示する際には、「解決すべき課題」に焦点を合わせ、ひとりよがりの表現にならないよう常に心がけています。課題を正確に把握すると同時に、企業さまが「こうありたい」と描く理想の姿もヒアリングし、その実現に必要な道筋を考えて、逆算してストーリーを組み立てていきます。その過程では、会社や業界に関する情報を広く集めたり、仮説を立てて検証したりと地道な作業も欠かせません。

著名な作家さんなどがよく、日常のふとした瞬間に「アイデアが降ってくる」と表現したりしますが、残念ながら私は今まで片手で数えるくらいしか経験がありません。それでもプロとして活動する以上は、ひらめきのような不確定な要素に頼ることなく、お客さまに納得いただけるものを期日内にきちんと仕上げる必要がある。だからアイデアを生み出すための手法を自分の中で何パターンか持っていて、先ほど触れた逆算法もその一つです。アイデアは降ってはこない、という前提でロジカルに泥臭く制作に取り組んでいますし、そうした手法を持っておく大切さを、クリエイターを目指して学ぶ生徒さんにも伝えています。

女性たちの「働きたい」を叶えるプラットフォームとしてウーマンクリエイターズバンクを2016年に立ち上げた際に、この先10年をかけて、思い描く規模と体制で組織がしっかりと機能する状態に持っていこうと目標を定めました。今はその半分が過ぎた段階ですが、2018年には絵本の出版レーベルを設立し、翌年には絵画教室をスタートさせるなど、所属クリエイターの活躍の場を広げるための事業拡大にも注力しています。表現力と発信力を磨いた女性クリエイターたちが連携し、よく多くのプロジェクトを活発に自走させられる体制を整えたい。その実現に向けて引き続き種まきに努め、花ひらく未来をみんなで実現させたいと思っています。


CREATIVE COLLABO メンバーよりひと言

(produce div. 金山 宗弘)

販促や採用活動では、動画、WEB、紙媒体等、さまざまなツールがあり、デザイン性の高いものをつくるという点においては、もはやあたり前となっている時代だと思います。そうしたなかで、作り手側の目的や想いがしっかりと伝わるもの、手に取ってもらえるものを求めている企業様からの相談は非常に増えています。
採用パンフレットがマンネリ化していて読んでもらえない
企業理念やビジョンが社員に浸透していない
自社商品のオリジナリティをもっとユーザーにわかってほしい
そんな声に応えるのが、絵本の持つストーリーと存在感。その魅力をぜひ知っていただきたいと思います。